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POSITION・4 ヴィラ
ヴィラ 5
しおりを挟むこのところ――。その言葉が本当なら、フィンは今までにも何度か、サルヴァトーレの部下に身を任せて、薬を打ってもらっていたことになる。あのナターレの夜から、何度も――。
あれからずっと薬の量を減らし、純度も低いものに変えていたというのに――。針も静脈ではなく、皮下注射に変えていたというのに、その甲斐もなく。
フィンには、それが不満だったというのだろうか。涙を零し、サルヴァトーレと北欧へ行く日のことを夢見ていたのは、全て嘘だったのだと――。いや、嘘でなくとも、薬の誘惑には勝てなかったのだと――。
だが、フィンは毎日文句も言わず、ただ、それを当たり前に過ごしていたではないか。
それが……実際には、薬の量は全く減っておらず、静脈注射もやめては、いない。
屋敷に着くまでの間、その憤りだけが込み上げて、いた。
車が門を潜り、正面玄関で動きを止める。
「何か連絡は?」
屋敷の中へと足を進め、サルヴァトーレは、迎えに出て来た使用人に問いかけた。
「メール・ボックスに、これが」
使用人が差し出したのは、一通の白い封筒だった。消印は、ない。サルヴァトーレの名だけが刻まれ、差出人も記されては、いない。
「貸せ」
それを取り上げ、サルヴァトーレは乱暴に封を引き裂いた。中の便箋にも、差出人の名前はなく、短い文面だけが記されている。
《今夜零時までに、米ドルで五〇〇〇万ドル用意し、サン・ピエトロ広場へ持って来い。コンテリアツィオーネ通りをゆっくりと進み、オベリスクの前で車を止めること。余計な細工をすれば、人質の命はない》
何度かその文面を繰り返し、サルヴァトーレは、まだ空になっていない封筒の中身を取り出した。
写真――それは全てフィンの写真だった。
フィンは四肢をベッドに固定され、大勢の男たちに輪姦され、様々な姿で弄ばれて、いる。唇も肌も男たちの精液に塗り替えられ、何人もの欲望に貫かれ……。正視しかねる悲愴さだった。
「……五〇〇〇万ドル用意しろ。米ドルだ」
手の中の写真を握り潰し、サルヴァトーレは低い声で指示を出した。
「サルヴァトーレ様っ! あのような少年に何故五〇〇〇万ドルも――」
五〇〇〇万ドル――ファミリーに取っては大したことのない金額でも、得体の知れない一人の少年に使うには、半端ではない金額である。
「もちろん、この私の手で始末するためだ。私――サルヴァトーレ・インツェリッロをナメてかかったガキを」
「――」
サルヴァトーレの言葉に、部下の誰もが目を瞠った。
「さっさとしろっ!」
「……。か、かしこまりましたっ」
と、息を呑んで引き下がる。
「おまえたちは車の用意をしておけ。一台でいい。広場へは私一人で行く」
「お一人で? そのようなことは出来ませんっ。身代金は我々が広場に運びます。あなたはここで――」
「死ぬのは私一人で充分だ。――相手の指定場所を見ただろう? 円形の広場だ。狙い撃ちされるのは目に見えている。広場を囲む二四八本の柱列の陰から、な」
「しかし……っ」
「相手は恐らくガンビーノだ。私を死なせたくなければ、零時までに奴らの居場所を突き止めろ」
「か、かしこまりましたっ」
屋敷はバタバタと騒がしくなった。
――フィン……。彼はもう人間では、ない……。
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