ピエタ【完結】

竹比古

文字の大きさ
上 下
19 / 24
POSITION・4 ヴィラ

ヴィラ 4

しおりを挟む

 その連絡が届いたのは、ベネト通りを圧する華麗な外装で建つホテルの一室で、大司教との会談を終え、席を立った時だった。
 サルヴァトーレの耳元で、部下が小さく耳打ちをした。
「――マッテオが殺された……だと?」
 予期せぬ言葉に、サルヴァトーレは、確認のように繰り返した。
「はっ。ボルゲーゼ公園側のヴィラ・ボルゲーゼの一室で、十数発の弾丸を撃ち込まれ――」
「ヴィラ・ボルゲーゼ? 何故そんなところにいたんだ?」
 訝しく眉を寄せて、問い返す。
「それが……」
 部下は少し、ためらいを、見せた。
「女と一緒か?」
「まだはっきりとは……。ただ、もしかするとフィン様と一緒だったのでは、と……」
「――。フィンだと?」
 サルヴァトーレは、思いがけない名前が出たことに、再び瞳を見開いた。
「は、はァ……。屋敷にフィン様の姿は見当たらず、マッテオが彼と一緒に車に乗るところを、使用人が目撃していて……」
「……」
 それは、何を示す言葉だったのだろうか。
 今まで――少なくとも、サルヴァトーレが知る限りでは、フィンは、ただの一度も、他の人間と外出したりすることなど、なかったのだ。
 厳しい面で指を結び、部屋の外へと翻る。
 贅を凝らした重厚な調度と装飾の中を、サルヴァトーレは不審を抱えて、突き進んだ。
 ホテルの正面玄関には、黒塗りのリムジンが回っている。それに乗り込み、リア・シートに身を沈めると、
「相手は誰だ? コルレオーネ系のファミリーか?」
 と、運転席の部下へと、問いかける。
「今、調べております」
「……。フィンの死体は?」
「ございません。一緒ではなかったのか、連れて行かれたのか……。ただ、マッテオは全裸で、ベッドの相手がいたことだけは確かですが」
「そうか……」
 フィンはまだ殺されてはいない、のだ。それだけが唯一の安堵だった。
 だが、それならフィンは――フィンとマッテオは、何故、そんなところに出掛けていた、というのだろうか。
「……マッテオは、何故、フィンを連れ出した?」
 厳しい面で、サルヴァトーレは訊いた。
「それは……」
 部下が視線を散らして、言い淀む。
「知っていることを言えっ!」
 その一喝に、部下の面が蒼白になった。
「あ、あのっ、噂ですが、このところフィン様はヘロインと引き換えにファミリーの一部の人間と寝ていると……」
「――。何……?」
 そんな言葉が返って来るなどと、誰が思っていただろうか。
 ついこの間――ナターレの夜に、もう処方量のヘロインだけしか打たない、と――他の誰からもヘロインは受け取らない、と――そう約束したばかりだったというのに。
「い、いえっ、あの――ただの噂ですっ。本当かどうかは――」
「もういい」
「……」
 重い沈黙が、張り詰めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...