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POSITION・4 ヴィラ
ヴィラ 4
しおりを挟むその連絡が届いたのは、ベネト通りを圧する華麗な外装で建つホテルの一室で、大司教との会談を終え、席を立った時だった。
サルヴァトーレの耳元で、部下が小さく耳打ちをした。
「――マッテオが殺された……だと?」
予期せぬ言葉に、サルヴァトーレは、確認のように繰り返した。
「はっ。ボルゲーゼ公園側のヴィラ・ボルゲーゼの一室で、十数発の弾丸を撃ち込まれ――」
「ヴィラ・ボルゲーゼ? 何故そんなところにいたんだ?」
訝しく眉を寄せて、問い返す。
「それが……」
部下は少し、ためらいを、見せた。
「女と一緒か?」
「まだはっきりとは……。ただ、もしかするとフィン様と一緒だったのでは、と……」
「――。フィンだと?」
サルヴァトーレは、思いがけない名前が出たことに、再び瞳を見開いた。
「は、はァ……。屋敷にフィン様の姿は見当たらず、マッテオが彼と一緒に車に乗るところを、使用人が目撃していて……」
「……」
それは、何を示す言葉だったのだろうか。
今まで――少なくとも、サルヴァトーレが知る限りでは、フィンは、ただの一度も、他の人間と外出したりすることなど、なかったのだ。
厳しい面で指を結び、部屋の外へと翻る。
贅を凝らした重厚な調度と装飾の中を、サルヴァトーレは不審を抱えて、突き進んだ。
ホテルの正面玄関には、黒塗りのリムジンが回っている。それに乗り込み、リア・シートに身を沈めると、
「相手は誰だ? コルレオーネ系のファミリーか?」
と、運転席の部下へと、問いかける。
「今、調べております」
「……。フィンの死体は?」
「ございません。一緒ではなかったのか、連れて行かれたのか……。ただ、マッテオは全裸で、ベッドの相手がいたことだけは確かですが」
「そうか……」
フィンはまだ殺されてはいない、のだ。それだけが唯一の安堵だった。
だが、それならフィンは――フィンとマッテオは、何故、そんなところに出掛けていた、というのだろうか。
「……マッテオは、何故、フィンを連れ出した?」
厳しい面で、サルヴァトーレは訊いた。
「それは……」
部下が視線を散らして、言い淀む。
「知っていることを言えっ!」
その一喝に、部下の面が蒼白になった。
「あ、あのっ、噂ですが、このところフィン様は薬と引き換えにファミリーの一部の人間と寝ていると……」
「――。何……?」
そんな言葉が返って来るなどと、誰が思っていただろうか。
ついこの間――ナターレの夜に、もう処方量のヘロインだけしか打たない、と――他の誰からもヘロインは受け取らない、と――そう約束したばかりだったというのに。
「い、いえっ、あの――ただの噂ですっ。本当かどうかは――」
「もういい」
「……」
重い沈黙が、張り詰めた。
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