16 / 24
POSITION・4 ヴィラ
ヴィラ 1
しおりを挟む骨を蝕む激しい痛みが、続いて、いた。
体の隅々まで痛め付けるその苦痛は、叫びを上げるのも厭わなくなるほどに、絶え間無い激痛と、恐怖をもたらした。
「……サルヴァトーレ……は?」
フィンは、その人物だけを探して回り、通りかかった使用人の一人を、引き留めた。
シシリーに建つ邸宅とは違い、ローマに建つこの別宅は、まだ、ここの主がどこにいるか、フィンに教えてはくれないのだ。
「旦那様はお出掛けになりましたが」
「……出掛けた?」
その使用人の言葉に、フィンは碧い瞳を見開いた。
「はい。夕食までにはお戻りになると伺っております」
夕食……。まだ随分と時間が、ある。それまで、この苦しみに耐えていることが出来る、というのだろうか。
「――フィン様?」
黙り込むフィンの様子に、使用人が首を傾げた。
「クス……リ……」
「あの――」
使用人の声は、フィンの耳には届かなかった。
凍えるように背中を丸め、広い廊下を歩き出す。
苦痛が体を駆け巡っていた。
額には汗が吹き出している。
それでも、その苦しさを押さえ付け、フィンは、半ば壁に身を擦り付けるようにして、廊下を、進んだ。
その先に、ダーク・スーツに身を包む男が、姿を見せた。サルヴァトーレの部下の一人である。
フィンは、その男の元へと足を向けた。
「彼は――サルヴァトーレは……! 彼も帰って来たのか……っ!」
と、すがりつくようにして、喉を開く。
「――フィン様?」
男は、そのフィンの様子を見て、首を傾げた。
「彼は……」
「まだお戻りではありませんが」
戻って、いない……。
この屋敷に、薬をくれる人間はいないのだ。――いや、本当にそうなのだろうか。薬を持っている人間なら、この屋敷にも、何人も、いる、のではないか。
「薬……。薬が欲しいんだ……。持ってるだろ? 君も薬を――っ」
フィンは男の上着を握り締め、壊れそうな瞳を持ち上げた。
「フィン様――」
「くれよ……。預かってるだろ……? 彼から薬を……」
「いえ。あなたのことには干渉しないように言われておりますので」
「……」
「では、私はこれで」
男はそう言って、廊下の先へと翻って行った。
それを見過ごしてしまえば良かった、というのだろうか。
この狂いそうになる激痛に、じっと耐えていれば良かったのだと。
「くれたら……薬をくれたら……何でもする……。何をしても構わない……」
「――」
フィンの言葉に、男の足が、ピタリ、と止まった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話
NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……?
「きみさえよければ、ここに住まない?」
トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが………
距離が近い!
甘やかしが過ぎる!
自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?
【本編完結】惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
三月叶姫
恋愛
両片思いをこじらせすぎた男女の恋は、惚れ薬により加速する!?
とある村に住むエリーゼの元に突然、幼なじみのユーリから「惚れ薬」が届いた。
そこへやってきた、もう1人の幼なじみルーカスはその場で惚れ薬を飲んでしまう。
「エリーゼ、好きだ。俺と結婚しよう」
それはエリーゼが長年求めていた言葉だった。
・・・だけどそれって惚れ薬による偽物の感情よね・・・?
ルーカスの告白が信じられないエリーゼは惚れ薬の事を知るためにも、ルーカスと共にユーリが住む首都へ行く事を決める。
そこでルーカスの意外な姿を知り・・・?
一方で惚れ薬を飲んだルーカスのエリーゼへの愛は止まらない。
既成事実を作ろうとしたり、2人の愛の巣の準備、将来の墓石の確保、ウエディングドレス製作まで・・・同意も得ないまま結婚に向けて突っ走る彼には、急がなければいけない理由があった・・・?
エリーゼ、ルーカスそれぞれの視点が切り替わりながら物語が進む中、少しずつ明らかになる2人の関係。
どうして2人の恋愛はここまで拗れてしまったのか・・・?
ユーリは何故惚れ薬を送ってきたのか・・・?
この恋愛は純愛か?陰謀か?喜劇か?
2人の視点が交差する時、物語のもう一つの真実が浮き彫りになる。
これは2人が本当に幸せになるまでの物語。
※この作品は他の小説投稿サイトにも掲載しております。
炎よ永遠に
朝顔
BL
叔父の頼みを受けて、俺は世界有数の金持ちや、高貴な家柄の子息が集うウェストオーディン国の寄宿学校に途中入学することになる。
一族の名誉のために託された使命は、天国と呼ばれる特別に区切られた場所に入ること。そして、神と呼ばれる選ばれた人間から寵愛を受けることだった。
愛を知らず過去の傷に苦しめられながら生きる俺は、同じく愛を知らない男と出会う。
体を繋げることで、お互いの孤独を埋め合うように求め合うが、二人の行き着く先とは……。
西洋の現代に近いですが、架空設定。
日本以外の設定はゆるいです。
過去はシリアスですが、進行形は主人公が愛に目覚めて再生していくお話を目指しています。
重複投稿。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる