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POSITION・3 ナターレ
ナターレ 2
しおりを挟む「……。キスを、フィン」
その白い頬に、指を伸ばす。
フィンの肢体が、サルヴァトーレの胸の上に、軽い風を起こして、被さった。
小さな輪郭が、狂おしく近づき、柔らかい唇が、触れて、重なる。
サルヴァトーレは、フィンの髪に指を通し、その髪を、引き抜くほどの力で、つかみ取った。
「痛――っ!」
フィンの面が、きつく歪んだ。片手を持ち上げ、髪に絡まるサルヴァトーレの指を、細い指先で、懸命に引き剥がさんと、もがいている。
「何を考えている、フィン? 君はどこの誰だ?」
つかんだ髪を、さらに強く握り締め、サルヴァトーレは、逃げ場を封じるように、問いかけた。
「う……。いた……い……」
「言え、フィン! 君は何者だ? フルネームは?」
「手……放し……っ」
「まだたった十数年で死ぬ積もりか?」
「痛……い……。サルヴァトーレっ、痛い……っ!」
まだ、彼は、応えない、というのだろうか。
どんなに惨めでも、麻薬中毒者の男娼のままでい続ける、というのだろうか。
だとすれば、何故、彼はそれほど哀しい道を選んだ、というのだ。
「……愛してる、フィン」
握り締める髪から指を放し、サルヴァトーレは、華奢な肢体を腕の中へと包み込んだ。
「……サルヴァトーレ?」
碧い瞳が、その不意の出来事に戸惑うように、大きく揺れた。
予期していなかった、というのだろうか、彼は。
サルヴァトーレの心が彼に惹かれて行くことを――いや、サルヴァトーレがそんな感情を持つことに、全く気づいていなかった、と。
「愛している、フィン……」
サルヴァトーレは、さらに強く、そして優しく力を込めて、同じ言葉を繰り返した。
何故、彼にそれほど惹かれたのかは、解らない。
初めて触れ、初めて肌を重ねた少年、だったからかも、知れない。
幼い日以来、抱き締められたことのなかった母の代わりに、彼を抱いた、のかも、知れない。
それでも何時かしら心惹かれ、胸の中に彼の存在が棲みついていたのだ。まるで『ピエタ』を鑑る時にも似た思いで、彼はサルヴァトーレの心に存在していた。胸を締め付け、息苦しいほどに身近な存在として……。
だから、死なせたくは、なかったのだ。
ずっと側に置いておきたかった。
どれくらいそうしていただろうか。
不意に、暖かい雫が、胸に、落ちた。
「……フィン?」
サルヴァトーレはその温もりを感じて腕を解き、フィンの小さな顎を、持ち上げた。
その瞳には、脆く透き通った雫が、溜まっている。碧い瞳も赤く潤み、子供のように、涙が零れるのを堪えている。
唇を結び、何も言えない様子で、震えている。
それでもやはり、堪えていることが出来なかったのか、大きな雫が、ポロポロ、と二粒、零れ、落ちた。
その涙の原因も、彼は決して、言わなかった。
ただ、幸せそうな涙、だった。
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