ピエタ【完結】

竹比古

文字の大きさ
上 下
13 / 24
POSITION・3 ナターレ

ナターレ 2

しおりを挟む


「……。キスを、フィン」
 その白い頬に、指を伸ばす。
 フィンの肢体が、サルヴァトーレの胸の上に、軽い風を起こして、被さった。
 小さな輪郭が、狂おしく近づき、柔らかい唇が、触れて、重なる。
 サルヴァトーレは、フィンの髪に指を通し、その髪を、引き抜くほどの力で、つかみ取った。
つう――っ!」
 フィンの面が、きつく歪んだ。片手を持ち上げ、髪に絡まるサルヴァトーレの指を、細い指先で、懸命に引き剥がさんと、もがいている。
「何を考えている、フィン? 君はどこの誰だ?」
 つかんだ髪を、さらに強く握り締め、サルヴァトーレは、逃げ場を封じるように、問いかけた。
「う……。いた……い……」
「言え、フィン! 君は何者だ? フルネームは?」
「手……放し……っ」
「まだたった十数年で死ぬ積もりか?」
「痛……い……。サルヴァトーレっ、痛い……っ!」
 まだ、彼は、応えない、というのだろうか。
 どんなに惨めでも、麻薬中毒者ジャンキーの男娼のままでい続ける、というのだろうか。
 だとすれば、何故、彼はそれほど哀しい道を選んだ、というのだ。
「……愛してる、フィン」
 握り締める髪から指を放し、サルヴァトーレは、華奢な肢体を腕の中へと包み込んだ。
「……サルヴァトーレ?」
 碧い瞳が、その不意の出来事に戸惑うように、大きく揺れた。
 予期していなかった、というのだろうか、彼は。
 サルヴァトーレの心が彼に惹かれて行くことを――いや、サルヴァトーレがそんな感情を持つことに、全く気づいていなかった、と。
「愛している、フィン……」
 サルヴァトーレは、さらに強く、そして優しく力を込めて、同じ言葉を繰り返した。
 何故、彼にそれほど惹かれたのかは、解らない。
 初めて触れ、初めて肌を重ねた少年、だったからかも、知れない。
 幼い日以来、抱き締められたことのなかった母の代わりに、彼を抱いた、のかも、知れない。
 それでも何時かしら心惹かれ、胸の中に彼の存在が棲みついていたのだ。まるで『ピエタ』を鑑る時にも似た思いで、彼はサルヴァトーレの心に存在していた。胸を締め付け、息苦しいほどに身近な存在として……。
 だから、死なせたくは、なかったのだ。
 ずっと側に置いておきたかった。
 どれくらいそうしていただろうか。
 不意に、暖かい雫が、胸に、落ちた。
「……フィン?」
 サルヴァトーレはその温もりを感じて腕を解き、フィンの小さな顎を、持ち上げた。
 その瞳には、脆く透き通った雫が、溜まっている。碧い瞳も赤く潤み、子供のように、涙が零れるのを堪えている。
 唇を結び、何も言えない様子で、震えている。
 それでもやはり、堪えていることが出来なかったのか、大きな雫が、ポロポロ、と二粒、零れ、落ちた。
 その涙の原因も、彼は決して、言わなかった。
 ただ、幸せそうな涙、だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

待てって言われたから…

ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...