ピエタ【完結】

竹比古

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POSITION・3 ナターレ

ナターレ 1

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 静かなナターレクリスマスの夜――。
 街を飾るイルミネーションの輝きも、口づけを交わす恋人たちも、聖なる夜を、永遠の都に讃え合う。
 光溢れる地中海の都は、夜はまた別の衣を纏い、訪れる旅人を戸惑わせるのだ。
 繁華街の淡いネオンと、鮮やかなファッション。赤褐色の壮大な建物は影となり、不思議な調和と安らぎを、もたらす。
フォン・ナターレメリー・クリスマス、シニョーレ.サルヴァトーレ……」
 天蓋付きの大きなベッドに微睡む中、フィンは、肩に掛けるシーツを、するり、と落とし、しなやかな裸身を、半分、起こした。
 逞しい肢体の脇に腕を立て、白い唇を、重ね、合わせる。
 舌を搦め、ゆっくりと吸い付くそのキスは、長く心地よい感覚で、体の奥まで、深く沈んだ。
 サルヴァトーレは、その心地よさに浸りながら、上に重なるフィンの姿を、じっと見据えた。
 フィンの頬は、透き通るほど儚い色に、犯されている。いつかはその頬も醜くけ、廃人のように生気のないものとなってしまうのだろう。――いや、いつかではなく、いつそうなってもおかしくはないほどに、その日は近づいているはずなのだ。
 それに耐えられる、というのだろうか、彼は。
 そして、サルヴァトーレは……。
「薬をやめるんだ、フィン」
 碧い瞳を見据えたままで、サルヴァトーレは、もう堪えていられない言葉を、口にした。
「他の人には売るのに?」
「……」
「ぼくが人間でいられなくなったら、殺してくれていい」
 ――殺して……。
 彼は何故、そんな言葉をためらいもなく口にするのだろうか。
 サルヴァトーレが彼を殺せない、とでも思っているのだろうか。
 それとも……。
「……。君は一体、誰だ?」
 サルヴァトーレは、今まで何度も問おうとして噤んで来た問いを、口にした。
 碧い瞳が、ゆうるりと、瞬く。
 だが、それは返事を考えるための行為では、なかっただろう。
 応えは返らず、色薄い唇だけが、肌に、落ちた。
 フィンは舌を立てて、サルヴァトーレの首筋から胸へと愛撫を注ぎ、さらに下まで、滑らせる。敏感な部分を口に含み、その逞しさを丹念に育て、慈しむように喉の奥まで受け入れる。強く吸い上げ、舌を搦め、口の中一杯に育って行く苦しさを堪えながら、きつく瞳を閉じて、愛撫を、続ける。
 ままならない呼吸だけが、部屋に、あった。
 彼は、きっと何も、喋らないのだろう。嘘をつく訳ではなく、何も喋ろうとは、しない。
 口に含む官能が充分に育ち、屹立したのを見ると、フィンは深い呼吸で、愛撫を、解いた。それを手に、今度は自身の元へと緩やかに導き、そっと、宛てがう。
 屹立した逞しさは、もう充分、彼を愛せるものとなっていた。
 その上に腰を降ろし、フィンは、もう慣れたことのように、腰を沈めた。
 濡れた官能が、小さく可憐なその蕾を、美しい葩へと、開花、させる。
「く……っ」
 逞しさを受け入れた刹那の苦痛に、圧し殺すような声が、上がった。
 体を貫く辛い痛みに、華奢な肢体が、氷魚のように透き通る白さに、反り返る。
 あとどれくらい、そんな彼の姿を見ていることが出来るのだろうか。
 サルヴァトーレは、胸に走った痛みに、こぶしを握った。
 多分、彼を失いたくは、なかった、のだ。


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