12 / 24
POSITION・3 ナターレ
ナターレ 1
しおりを挟む静かなナターレの夜――。
街を飾るイルミネーションの輝きも、口づけを交わす恋人たちも、聖なる夜を、永遠の都に讃え合う。
光溢れる地中海の都は、夜はまた別の衣を纏い、訪れる旅人を戸惑わせるのだ。
繁華街の淡いネオンと、鮮やかなファッション。赤褐色の壮大な建物は影となり、不思議な調和と安らぎを、もたらす。
「フォン・ナターレ、シニョーレ.サルヴァトーレ……」
天蓋付きの大きなベッドに微睡む中、フィンは、肩に掛けるシーツを、するり、と落とし、しなやかな裸身を、半分、起こした。
逞しい肢体の脇に腕を立て、白い唇を、重ね、合わせる。
舌を搦め、ゆっくりと吸い付くそのキスは、長く心地よい感覚で、体の奥まで、深く沈んだ。
サルヴァトーレは、その心地よさに浸りながら、上に重なるフィンの姿を、じっと見据えた。
フィンの頬は、透き通るほど儚い色に、犯されている。いつかはその頬も醜く痩け、廃人のように生気のないものとなってしまうのだろう。――いや、いつかではなく、いつそうなってもおかしくはないほどに、その日は近づいているはずなのだ。
それに耐えられる、というのだろうか、彼は。
そして、サルヴァトーレは……。
「薬をやめるんだ、フィン」
碧い瞳を見据えたままで、サルヴァトーレは、もう堪えていられない言葉を、口にした。
「他の人には売るのに?」
「……」
「ぼくが人間でいられなくなったら、殺してくれていい」
――殺して……。
彼は何故、そんな言葉をためらいもなく口にするのだろうか。
サルヴァトーレが彼を殺せない、とでも思っているのだろうか。
それとも……。
「……。君は一体、誰だ?」
サルヴァトーレは、今まで何度も問おうとして噤んで来た問いを、口にした。
碧い瞳が、ゆうるりと、瞬く。
だが、それは返事を考えるための行為では、なかっただろう。
応えは返らず、色薄い唇だけが、肌に、落ちた。
フィンは舌を立てて、サルヴァトーレの首筋から胸へと愛撫を注ぎ、さらに下まで、滑らせる。敏感な部分を口に含み、その逞しさを丹念に育て、慈しむように喉の奥まで受け入れる。強く吸い上げ、舌を搦め、口の中一杯に育って行く苦しさを堪えながら、きつく瞳を閉じて、愛撫を、続ける。
ままならない呼吸だけが、部屋に、あった。
彼は、きっと何も、喋らないのだろう。嘘をつく訳ではなく、何も喋ろうとは、しない。
口に含む官能が充分に育ち、屹立したのを見ると、フィンは深い呼吸で、愛撫を、解いた。それを手に、今度は自身の元へと緩やかに導き、そっと、宛てがう。
屹立した逞しさは、もう充分、彼を愛せるものとなっていた。
その上に腰を降ろし、フィンは、もう慣れたことのように、腰を沈めた。
濡れた官能が、小さく可憐なその蕾を、美しい葩へと、開花、させる。
「く……っ」
逞しさを受け入れた刹那の苦痛に、圧し殺すような声が、上がった。
体を貫く辛い痛みに、華奢な肢体が、氷魚のように透き通る白さに、反り返る。
あとどれくらい、そんな彼の姿を見ていることが出来るのだろうか。
サルヴァトーレは、胸に走った痛みに、こぶしを握った。
多分、彼を失いたくは、なかった、のだ。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる