ピエタ【完結】

竹比古

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POSITION・2 ローマ

ローマ 4

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「サルヴァトーレ、トラメッツィーニサンドイッチもっ」
 目についたバールの方を指さし、フィンが言った。
「ん、ああ」
「具はハムと野菜」
 ガラス・ケースの中を覗きながら、注文をつける。
 椅子も何もない立ち食いのコーヒー・ショップ兼、食堂兼、公衆電話兼、公衆トイレ兼……の便利な店である。
 カフェとサンドイッチを注文し、キャッシャーで料金を払って、そのレシートをカウンターへ持って行く――と、注文のサンドイッチとカフェが姿を見せた。
 通りでそれを頬張りながら、光の中の時間を、楽しむ。
「いつもそれくらいの食欲があれば上等だが」
 サルヴァトーレは皮肉な口調で視線を向け、片手に持つカフェを口に含んだ。
 刹那だった。サンドイッチを口に運ぶフィンの手が、不意に、止まった。
「どうした――」
 声をかけようとしたが、
「く……っ!」
 呻きと共に、フィンの手の中のサンドイッチが、ポトリ、と、落ちた。
 フィンは背中を丸めて、苦しげに地面に座り込んでいる。その額には、あっ、と言う間に汗が、滲んだ。気分が悪いことは、容易に、知れた。
「クソっ!」
 サルヴァトーレは、その容体の変化を察して舌を打ち、
「ヴィットリオ! ヴィットリオ、車を回せっ!」
 と、カフェを投げ捨て、少し離れて付いて来ているはずの部下に、言葉を放った。
 周囲の視線が、チラチラ、とその場に集まり始める。長い時間では、ない。すぐに黒塗りのリムジンが脇に止まった。
「さあ、乗るんだ」
 リア・シートにフィンを押し込み、サルヴァトーレも後に続いて車に乗り込む。
「屋敷へ戻れ」
「はっ」
 車はすぐに、走り出した。
「薬……。サルヴァトーレ……」
 車の窓に、白い額を押し付けながら、苦しげな口調で、フィンが言った。
「何故ドラッグを始めた? 皆がやっているからか? ――このまま続ければ死ぬのが目に見えている」
「……」
「そんなに死にたいのか?」
 サルヴァトーレはきつい視線で、フィンの汗を厳しく見据えた。
 だが――。
 だが、
「くれるって言ったじゃないか……。何でもするから……薬を……」
「……」
「欲しいんだ……サルヴァトーレ……」
 フィンは治まらない苦痛に呻くように、細く言った。
 彼は何故、何も話そうとしないのだろうか。
 何故、薬に溺れているのだろうか。
 さっきまで、光の中であれほど楽しげにはしゃいでいたというのに、何故、こんな無様な姿をさらすような真似をする、というのだろうか。
「……。君の体だ。好きにすればいい」
 白い肌に注射針ニードルの黒点が増え、汚れて、行く。人の姿では死ねなくなるのだ。
 サルヴァトーレは、いつものようにピルケースを取り出し、支度を始めた……。


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