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POSITION・1 シチリア
シチリア 2
しおりを挟むシチリア――。
欧州とアフリカの桟たる地中海のこの島は、特異な混在文化に育った街であり、さまざまなものが交差している。
縮れた髪と、浅黒い肌のアラブ系。
金色の髪と、碧い瞳の北欧系。
黒い髪のローマの末裔。
モスクと教会が肩を並べ、ギリシア風の柱列と、ローマ風の円蓋が、一つの建物に取り込まれる。
異国の権力者たちの抑圧と、それに対する繰り返しの反乱――それが、この街の歴史なのだ。
人々の表情に陰鬱な陰が落ち、明るい笑みが沈もうと、人々は共に歌い、飲み、語り、愛し合う。
ここは、そんな独自の歴史を認められて特別州となったシチリアの州都、パレルモ。
シシリー・マフィア、インツェリッロ・ファミリーの本拠地でもある。
中東や東南アジアで生産された阿片がここに届くことも、ここで精製されたヘロインが海外へと運び出されることも、この街の姿を表している。
この街では、誰でも簡単にヘロインを手に入れることが出来るのだ。そして、そんな背景が、この街を沈黙の街として、いる。
サルヴァトーレ・インツェリッロ――。彼も、まだ三二歳の若さで、全ての人間を震え上がらせることが出来る、インツェリッロ・ファミリー――父親の君臨するそのファミリーのナンバー.2だった。鍛えられた肉体と、渋みを湛える整った面貌は、彼の鋭さと怜悧さを際立たせるものだっただろう。
寝息が、聞こえた。
それは、フィンと名乗る少年のものだった。催眠性のヘロインに、眠気を誘われて、深い眠りに堕ちたのだ。
静かな寝顔、だった。
世の神々の中で最高の美を湛えるとされるゲルマンの女神、フレイアの寵愛を一身に受けたように――。今はただ、あどけない幼子のように、愛らしく、屈託なく、綻んでいる。線の細い肢体も、透き通るような肌の白さも、情欲の跡に染まって、淫ら以上に、ハッと胸を突かれるほどの美しさだった。
サルヴァトーレはその寝顔をしばらく見つめ、バス・ルームへと足を向けた。
城のような豪邸を立てて街に君臨するマフィア――。ここも、その壮麗な屋敷の一つである。
ヤシ、サボテン、オレンジ、降り注ぐ陽差し、海からの風……。
ここは、エキゾチックで哀しい南の島……。
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