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死後の世界……?

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 結局、【DEATH】のアルカナが見せた光景は正しかったのだ。そして、その運命を変えることは、誰にも出来なかった。――いや、もしかすると心の底では、誰もが危機は通り過ぎた、と思っていたのかも知れない。あれは、幻覚を見せる【THE MOON】のアルカナが見せた光景で、現実に起こることではなかったのだと……。
 だが、実際にこうして死んでしまった。【DEATH】は、真実の死しか見せないのだ。
 それなのに、まだこうして職業病のように、あれこれ考えている。
 郡司は、死後の世界でも変わらない自分を見るように、ぼんやりとする頭を漂っていた。
 そんな郡司の耳元で、
「秋良! 目を醒まして、秋良! お願いよ!」
 悲痛な叫びが聞こえて来た。
 体が揺さぶられているのも、解る。
 ――え……?
 郡司は、死後の世界に紗夜がいることを知り、戸惑ったのはもちろん、やはりあの後、結局、紗夜もミイラの手に捕まって、絞殺されてしまったのか……と、ガッカリもした。
 だが――それにしては、体の感覚もちゃんとあり、現実世界と変わらないように思える。横たわっている床は、冷たくて硬いし……。
 それに、誰か他の気配が、
「うーん……」
 と唸って、起き上がる様子が伝わって来た。
 そして、郡司も目を開けたのである。
 目の前には、心配そうに郡司の顔を覗き込む、紗夜がいる。
「秋良……! 良かった!」
 そう言って抱き着いて来る姿は、ここが死後の世界とは思えない。周囲の様子からしても、死んだ時と同じ、六条邸のサロンである。
 傍らで起き上がったのは、藤堂――。
「なんだ? どうなったんだ? いきなり首を絞められて死んだような気がしたけど……」
 やはり彼も、郡司と同じ目に遭って死んだのだ。恐らく他の面々も、見えない手に首を絞められ、死んでしまった。
 次々に、一人、また一人と、原因も解らず倒れていく様子を見るのは、かなりの戸惑いをもたらすものだったに違いない。
 そして、こうして死んだ後で起き上がっていることにも、戸惑いを隠せない状況なのだが……。
「紗夜……」
 取り敢えず、体を起こして、自分を心配する妻の背中を軽く叩くと、
「もう……もう駄目かと思ったのに……。良かった……」
 と、涙をためて、郡司を見つめる。
「おうっ! 宮下、久しぶりだな! 無事に戻って来たのか」
 この場の空気が読めないのか、そんなことなどどうでもいいのか、旧姓で紗夜に片手を上げて、藤堂が首をボキボキと鳴らす。
「ワンワン!」
 シバも目覚めたようで、さっそく早野を起こしにかかり、次々に皆が目を醒ます。
「死んだと思ったんだが……」
「死んだわよねぇ、確かに」
「アカネお姉さまの手だったわ!」
「まさか自分が怪談を体験するなんて、ね」
 誰もが口々に死からの復活を言葉にして、首を締め上げるミイラの手の感触を思い出すように身震いした。
「――で、どこに行ったんだ、あの手は?」
 早野の言葉に、緊張が走る。姿が見えないのだから、どこかに潜んでいても、解らない。足を掬われて床に倒され、痛みに呻いている内に、次々と殺されて行く恐怖は、今後も忘れることはないだろう。
「シバちゃん、アカネの匂いがあちこちに染みついた部屋で判りにくいでしょうけど、まだ『アカネの手』はここにいるの?」
 アザミが訊くと、シバは慎重に部屋の中を嗅いで回り、耳を立てて音を拾い、その気配がないことを告げるように、「クゥ」と鳴いた。
「そう。別の部屋に姿を隠したか、それとももうここにはいないのか……。いえ、アカネがここから出て行くなんてあり得ないわね」
【Two of Wands】を持っているアザミには、シバの鳴き声も言葉として聞こえているのだろう。
「とにかく、油断はできないわ」

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