付喪螺旋-TUKUMO‐SPIRAL § ライト伝奇 § 【シリーズ1完結】

竹比古

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アルカナを使う時

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「何が目的なんだ?」
 能力者たる老人を前に、早野が訊いた。
 ふと、猛獣に話しかけるターザンや、怯える小動物に手を差しのべる心優しい少女の姿が脳裏を過った。
 最初から、こうして訊いてみればよかったのかも知れない。
 死体には色々訊いて観察し、そこに残された痕跡を探るために懸命になるのに、こと自分たちとは違った能力を持つ者には、『別の生き物』として何も訊くことをしないなど、愚行にも程がある。
「全ての【アルカナ】を、わしに寄越せ。そうすればおまえたちを生かして使役してやろう」
「……」
 あまり良い方向に状況が変わったとは、到底言えない……。生かして、というのは、脳を支配せず、意思を残したままで、ということなのか、その辺りは少しマシになったと言えるだろうが。
 だが、今、この老人に全ての【アルカナ】を渡してしまったら、もう二度と紗夜がいる場所へ行くことが出来なくなるかも知れない。
 ――やはり、早野が言ったように、今のうちに【アルカナ】を使って、紗夜の処へ行くべきなのだろうか。
 もし、郡司がそうした時、この場に残された藤堂やアザミ、シバや早野はどうなるのだろう。タヌキも――。恐らく、無事ではいられまい。
「解ったわ」
 そう応えたのは、意外なことに六条家の次女、アヤメだった。皆が一様に驚くのも構わず、
「でも少しだけ待ってほしいの。【THE SUN】の治癒能力を使って、アカネお姉さまを元の体に戻してあげてから――。それくらいのことはいいでしょう?」
 と、殊勝な言葉を口にする。
 無論、郡司は、『やはり、どれだけ喧嘩をしていても、兄弟姉妹というのはいいものだな』と、こんなところでも感動していた。――というか、【THE SUN】のアルカナはアヤメが持っていたのか、とその矛盾に違和感も感じていた。持っていたのなら、すぐに癒してやればよかったのに、と――。
「ふんっ、別にどうでもいいが――。そのミイラがどんな姿になるのか見てみるのも一興だな」
 老人の言葉に、アヤメはもちろん、ミイラであるアカネも喜んでいるように見えた。それはそうだろう。誰だって、そんな恐ろし気なミイラの姿でいたくはあるまい。元に戻れるのなら、どれほど悦ばしいことか。
「良かった! じゃあ――」
 と言って、アヤメが郡司の方に歩いて来る。
 ――え?
 と思ったが、
「【アルカナ】を渡してちょうだい」
 アヤメは当然のように、郡司が持つアルカナを要求した。
 今、郡司の手元にあるアルカナは、さっき早野から渡された【THE STAR】と【WHEEL of FORTUNE】、幻覚を見せる【THE MOON】のアルカナと、あとは……。
「ありがとう。これでお姉さまを治してあげられるわ」
「え――」
 戸惑う郡司に、アヤメの軽いウインクが瞬く。
 ――何か考えがあるのだろうか。
 アヤメが持って行ったアルカナを不審に思いながらも、ウインクの意味を考えて、郡司はそのまま口を閉じた。
 アヤメは何も言わずに、ミイラの姿の姉の元へと歩いて行く。何か考えがあったとしても、敵の前で手の内を明かすことは出来ないに違いない。
「私たち姉妹の中で、一番の器量良しだったアカネお姉さま。安心して。すぐに元の姿に戻れるわ」
 アヤメが、タヌキに咬まれて地面に崩れているアカネの傍に屈み込む。そして、アルカナを差し出し、掴ませた。
 ほんの刹那のことだった。アカネが何かを言いかけるのも構わずに、アヤメはもう一方の手を掴み取り、アカネにカードの表面を撫でさせた。
「あひゃめ――」
 抵抗しようとした乾いた手が、それも空しく、ポキっと折れた。黒く干からびたミイラの手は、それほどに脆いものだったのだ。
「さようなら、お姉さま」
 アヤメの唇の端が、持ち上がった……。

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