付喪螺旋-TUKUMO‐SPIRAL § ライト伝奇 § 【シリーズ1完結】

竹比古

文字の大きさ
上 下
52 / 70

死神が見せたもの

しおりを挟む

 そんな訳で、逃げ出したにも関わらず、郡司は再び六条の館を前にしていた。
 当然のことながら、郡司をはじめとする一行は、すぐに男たちに囲まれて――。
「御館様に連絡しろ!」
 と、今度は覚悟が出来ていたとはいえ、再び車椅子に座る真っ黒いミイラの処に連れて行かれ――。
「ほひゃまあ、あはひひひゃはいひゃ――」
 アザミを見ながら、ミイラ――この館の当主、六条アカネが言った。
「お姉さま、生憎、ミイラの言葉が解る【アルカナ】は持っていないの。誰かに通訳させてくださらないかしら?」
「――」
 アザミの言葉に、ミイラの体温が一度上がった。――ように感じた。ただし、体温があるのかどうかも不明である。
 ミイラは、二部式の着物の中に手を入れて、取り出した【アルカナ】をすっと擦った。黒い眼窩が、再びアザミを睨みつける。
 口を開いたのは、例によって通訳係の男だった。慣れた脳の方が操作しやすいのかも知れない。
「アサギリ様、御館様はあなたの身勝手さを許してきたのは間違いだった、とおっしゃっています」
 通訳が言った。
「あら、そう。私が勝手にすることにお姉さまの許可がいるとは知らなかったわ」
 またここでも姉弟喧嘩が始まりそうな予感――だったのだが、
「――っていうか、私がこうして、この面々と一緒に六条の家に戻って来た理由を尋ねた方がいいんじゃないの?」
 と、今回の危機を匂わせるように、アザミが続ける。
 アザミの側には、郡司と藤堂、そして、シバがいる。タヌキはきっと、あの四阿ガゼボでごはんが来るのを待っているだろう。
 そして、ミイラの側には通訳他二人の男たちと、離れた椅子にアヤメが無言で腰かけている。
「あなたのお話を聞きましょう」
 通訳が言った。
「――そういえば、アオイがいないわね?」
 素直に聞くと言われたら、焦らしてみたくなるのもセオリー通り。恐らく今頃は、タヌキにごはんでもあげているに違いないアオイのことを匂わせてみる。
「まさか、アオイ様もあなた方と共に行動を?」
 通訳の問いに、椅子に腰かけるアヤメの眉が、ピクリ、と動いた。それを見る限り、アヤメもアザミ同様、アオイが【JUSTICE】であることを知らないらしい。
「別にぃ。ちょっと気になっただけよ」
 アザミはどうでもいいように話を終わらせ、
「今すぐ全ての【アルカナ】を手放さないと、死ぬわよ、私たち」
 と、死神の描かれた【DEATH】のアルカナを取り出した。
 あの後、順番に【DEATH】が見せる光景を確認したのだが、その死の宣告は、誰が見ても同じだった。
「それはどういうことでしょうか」
 通訳が訊く。
「ここにいる全員が死ぬとすれば、その原因は【アルカナ】以外に考えられないでしょう?」
 今、アザミが口にしたことは、ここへ来る前に皆で考えて出した結論である。郡司としては、紗夜を見つける前に、またしてもこんな危機に見舞われてしまって、気が急くばかりなのだが。
「馬鹿馬鹿しい――と、おっしゃっています」
 天を仰ぐミイラの手が、再び【THE DEVIL】のアルカナを擦った。他人の脳に干渉することが出来る神秘アルカナである。
 だが、一体、誰の脳に――。
 もう、それ以上の通訳の言葉はなかった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)
キャラ文芸
お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓ https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI 【ストーリーあらすじ】 ■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■ ■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■ 室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉(おにやしゃ)。 ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、 鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。 時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。 一座とともに都に渡った鬼夜叉は、 そこで室町幕府三代将軍 足利義満(あしかが よしみつ)と出会う。 一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。 これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、 そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。 【その他、作品】 浅草を舞台にした和風歴史ファンタジー小説も書いていますので 興味がありましたらどうぞ~!(ブロマンス風、男男女の三人コンビ) ■あらすじ動画(1分) https://youtu.be/AE5HQr2mx94 ■あらすじ動画(3分) https://youtu.be/dJ6__uR1REU

処理中です...