付喪螺旋－TUKUMO‐SPIRAL § ライト伝奇 § 【シリーズ１完結】

天秤宮の鏡

　アザミの話では、サイトをチェックしていれば、ひとつ前の持ち主の情報がアップされるということなのだから、相手が事故現場近くの産婦人科がある病院を捜していたとしても不思議ではない。そして、妊婦が通るたびに、【THE STAR】についての情報を訊こうと、かなり強引に詰め寄ったのかも……。もしくは、途端に霧が立ち込めたことで、他のアルカナの存在に気づき、焦って銃を使ったか。
「クソ……っ！」
　妊婦にも簡単に手をかける連中――。そんな連中に紗夜が捕まってしまったら……。それに、紗夜と間違えられて殺されてしまったその妊婦も、郡司たちと同じく、間違いなくこの【アルカナ】の被害者なのだ。
　郡司が早野と共に自分の家に戻っていた時、外にいた連中も、その仲間だったのかも知れない。今日、産婦人科受診をした患者の記録を調べれば、紗夜の名前も出て来ただろうから。
「警察で全部話す。二人は、早野のアパートで待っていてくれ。事が早く済んだら、早野も戻ってくるかも知れない」
　と、シバとアザミに言い残し、
「行こう、藤堂」
　と、傍らの刑事を促した。
　紗夜のことは気になっていたが、早野の行先に行き詰ってしまった以上、少しでも情報が得られそうな場所に行くしかない。それに――。
　郡司は、藤堂の車に乗り込んで、自身の携帯端末を取り出した。
「誰かに電話か？」
「いや、ちょっと調べものだ」
　藤堂の問いかけにそう応え、天秤宮の【JUSTICE】が運営するという【アルカナ】のサイトを検索してみた。今まで、何だかんだでゆっくり見てみる時間もなかったのだ。

　天秤宮　【JUSTICE】　【アルカナ】

　この検索で引っかかるのだろうか。
　検索結果は、ほぼタロットカードに関連したサイトだったが、検索文字に『法医学者』を付け足すと、そのトップに上がって来たのは……。

《天秤宮の鏡》　―JUSTICE―

　というサイトだった。
　深い深い群青のスキンに、深淵アビスを覗き込むような闇色の丸い鏡、縁の装飾が幻想的で、いかにも神秘アルカナを語るに相応しいサイトだった。見ていると、その黒い鏡の中に、古い異国の文字を刻んだ魔法陣のようなものが浮かび上がり、中央に一枚のカードが現れた。
　その裏返しのカードをタップすると、カードはくるりと反転し、片手に天秤、もう一方の手に剣を掲げる【JUSTICE】の絵柄が閃いた。
《　汝、この剣に裁かれる覚悟があるならば、天秤の正義に己を捧げよ　》
　――どういう意味だろう？
　眉を寄せ、輝く天秤をタップすると、登録画面に切り替わった。
　どうやら、【アルカナ】の情報は、登録者のみが見られるらしい。
　自分の個人情報をわけの分からないサイトに登録するのは不安だったが、【JUSTICE】が透視能力を持っているのなら、嘘を書き込んでもすぐにバレてしまう。
　そんな訳で、郡司は仕方なく自分の氏名、生年月日、電話番号、アドレスに至るまで、すべてを偽りなく登録した。
　すると――。
《　汝の上に、裁きの剣は振り下ろされず――　》
　と、片手に掲げられた正義の剣が、次の画面への道筋となった。
　やはり、偽りを書き込もうとする者には、サイトの閲覧は許されないのだ。
　ほっとしながら、剣の示す先へと進んで行くと、【アルカナ】の部屋に案内された。ようやく、カードの（過去の）持ち主を見ることが出来るらしい。