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天秤宮の正義
しおりを挟む「天秤宮の正義がサイトに上げたからよ」
悪戯の種明かしをするように、女は言った。
「サイト?」
そんなところでオープンに【アルカナ】の情報が語られている、と言うのだろうか。
「なら、そのサイトを見れば、誰がどのカードを持っているか判るのか?」
郡司は訊いた。
だが、それなら、この女が今、郡司に声をかけているはずもない。郡司は今、【THE STAR】のカードも、【Four of Wands】も、どちらも持ってはいないのだから。
「まさか」
予想通り、女は郡司の言葉を打ち消した。
「【JUSTICE】は、いつも高みの見物をして楽しんでいるのよ。ひとつ前の持ち主を晒して、ね。今回、【THE STAR】は『撥ねられた男』『身籠った女』『法医学者』とコロコロ持ち主が変わったから、サイトを見ていた誰もが興味を持ったのよ」
「……」
ひとつ前の持ち主を晒して――。それなら、【JUSTICE】の能力は……。
「【アルカナ】の持ち主を透視できるのか?」
「少し違うわね」
女は言い、
「なんでも透視できるのよ」
――何でも……。
「なら、誰がどこにいるのかも判るのか?」
紗夜が今、何処で何をしているのかも――。
「あら、盗られた【アルカナ】を取り戻したいの?」
「……」
「それは無理よ。【JUSTICE】は誰の味方もしない、正義の味方――。クス。だから、今の持ち主を知っていてもサイトには上げない」
「それのどこが正義なんだ?」
「ちょっと違うかしら? でも、誰にでも平等よ」
「……」
確かにそうかも知れない。カードの持ち主を知っているのに、それを奪いに行かないなど――。後でサイトを検索してみなければ――。そう思った時、近くで、パン、パン、と二度、短い発砲音が駆け抜けた。
「この音は――」
「あいつらも嗅ぎつけて来たわ。――行くわよ」
女もそれが銃声であると判ったのか、霧の中を郡司の手を引いて走り出した。
「行くってどこに?」
「とにかくここを離れないと――。世の中には、人殺しをしてでも【アルカナ】の力を手に入れたいと思っている人間がいるのよ」
どこかで聞いた台詞である。
「あの男もそう言っていたな」
「騙して奪う人間、金で買う人間、殺して持ち去る人間――。まともな人間なら関わらずにおく方が賢明よ」
「君はまともじゃない類か?」
「――そうね。その一人だわ、きっと」
しばらく走ると霧は晴れ、二人はパーキングに戻って郡司の車に乗り込んだ。とにかく、この場を離れなくては、どんな危険があるか判らない、と、この女が言うからだ。
「誰かが俺と勘違いされて撃たれたかも知れない」
「かも知れないわね。――戻って名乗り出る?」
「……」
この女は一体、何者なのだろうか。最初に声をかけて来たチンピラ風の男とは、少しカードに対する執着の度合いが違っている。――生活に困っていないからだろうか。その日暮らしのようなあの男と比べても、身に着けているものからして、まず違う。華やかだが、決して派手な印象は与えないジャケットとタイトなスカート、そして、カットソーは今秋のデザイン。髪も最近カットされたように整っていて、ふわりとパーマがかけられている。爪もきれいで、生活の乱れは見られない。――と、またこんな職業病を出して、のんきに観察をしている場合ではない。
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