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伍拾
しおりを挟むそれから二時間後、その妖しく美しい少年は、香港の高級住宅街、九龍塘の閑静な一角に建つ絢爛な屋敷の一室――殺風景な地下室で、この世の悦楽に浸っていた。
一面、血の海と化したその空間には、喉の割れた男たちの死体が、幾つも、ある。二〇は超えていただろう。
広かった灰色の空間も、今は鮮やかな朱色に変わり、奇妙なオブジェのように、男たちがゴロゴロと転がっている。
その中の十数人は、まだ生きて呼吸をしていた。
「殺してくれ……」
という掠れた声が、幾つも聞こえる。
眼球が飛び出している男も、いる。
手足を切断され、イモ虫のように胴体だけになっている男も、いる。
部屋の中心には、いろいろな色や形をしたペニスが、床から生えるような形で、並んでいる。
剥がされた爪も、床を覆う鱗のように、並んでいる。
その回りには、虫歯を含める歯が並び、芸術的な線を築いていた。金歯もあるし、銀歯もある。血がきれいに拭い取られていることが、それを並べた美しい少年の異常性を示している。
美しい少年の呼吸は、速かった。自らの胸に残っている傷のせいでは、ない。床の上には、白濁した液が零れている。
射精したばかり、なのだ。
全裸ではないが、ボトムの前を開き、左手でペニスを握っているその姿は、ある意味では、全裸よりも悩ましい。
「体が、熱い……。こんなに興奮したのは、久しぶりだ……」
と、深い吐息を、長く零し、
「ほら、脈打ってるのが判るだろ? 触ってみるかい? もう柔らかくなっちゃったけど……柔らかい時のペニスの感触も好きなんだ。だって、ほら、こんなにフワフワして気持ちいい……。触りたいだろ?」
輪は訊いた。
「た……頼む……殺してくれ……」
歯のない口から、だらだらと涎混じりの血を垂れ流し、床に横たわる男は言った。
黒社会の首領、羅亜忝である。
ぽろぽろと幾筋もの涙を流し、以前の狡猾さなど微塵も留めていない面貌で、ただ輪へと哀願を続けている。
「だから大人は物覚えが悪くて嫌いなんだよ。ぼくが訊いたことにはちゃんと応えろ、って言っただろ!」
ダン、と足を踏み鳴らす音が、した。
「わああああ――――――――!」
絶叫としか呼べない、凄まじい叫びが響き渡る。
輪の足が、羅亜忝の睾丸を踏み潰したのだ。
ぐちゃ、っと潰れ、シワも靴の裏の模様に変わっている。
そして、羅は口から泡を噴いて、気絶していた。
「ふんっ。遊び甲斐のない奴」
輪はくるりと翻り、床に転がる男たちの方へと、視線を向けた。
誰もが――生きている誰もが、途端にその輪の双眸から、視線を逸らす。
恐れている、のだ。その美しい少年に、今以上の苦痛を与えられることを。
「こいつと同じように睾丸を踏んで回ったら、どいつが生きてるか判るかな」
その言葉に、生きている者の全てが、目を見開いた。
「や……やめてくれ……。も……死なせ……くれ……」
そこかしこで、呻きにも似た声が、虫の音のように薄気味悪く――輪に取っては心地よく、零れ落ちる。
「馬鹿だな。ここにいる全員が死にたがってる、ってことは、ぼくが一番よく知っているさ。だから、殺さずにいるんだよ。二〇人くらいは、頭に来て、つい、うっかり殺しちゃったけど」
「うぅ……う……頼む……殺し……くれ……」
「あ、ライターが落ちてるじゃないか」
床に落ちている金色のライターを見つけ、輪は楽しみを見つけたように、足取り軽くそのライターを拾い上げた。
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