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拾陸
しおりを挟むその足音が遠ざかると、子供たちがおずおずと、針を打たれて動けずにいる輪の周りを取り囲んだ。
「輪哥哥……」
瞳は涙で潤んでいる。
「ごめんね……。ぼくたち、ナイナイに何も言えなくて、ごめんね……」
と、婆婆に打たれた輪の頬に、柔らかい頬を重ねて、頬擦りをする。
やさしい子供たちなのだ、彼らは。心も何もかも、《城外》の人間よりずっと荒んでいるはずなのに、《城外》の人間には持ち得ない、素直なやさしさを持ち合わせている。
「ごめんね……。ぼくたち、助けてあげられなくて、ごめんね……」
《城外》の子供たちの何人が、こうして彼らのように、素直に謝ることが出来るだろうか。
輪は、ポリポリ、と頭を掻いた。
「え……」
と、子供たちが、ポカン、とする。
針を打たれて動けないはずの輪が、不自由なく体を動かして、ポリポリと頭を掻いているのだ。
「輪哥哥……?」
「あのごうつくババアとは生まれた時から付き合ってるんだからさァ。いつまでもおとなしく針を打たれてやしないって」
と、ツボとはほんの少しズレて刺さる針を、手でプチプチと抜き始める。
「だって、ナイナイに殴られて……」
「ああ、あれ。殴らせてやらなきゃ、動けることがバレちゃうだろ。それに、年寄りに恥をかかせてやっちゃ、可哀想だし」
彼も正しく、九龍城砦の住人なのだ。
婆婆の攻撃を躱せる者なら何人かいても、ツボに刺さったと見せかけて、ほんのわずかに外してそれを受けることの出来る人間など、この九龍城砦にもいはしない。もとより、婆婆の針を躱せる人間も、ここ十数年間、輪が生まれてからは、見たこともない。
「ナイナイには言うなよ。今度は止めを刺されるからな」
「はいっ」
この子供たちの中からも、また、畏怖されるべき妖人たちが育つのであろうか……。
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