魔窟降臨伝【完結】

竹比古

文字の大きさ
上 下
15 / 65

拾伍

しおりを挟む

「ここで何をしてるんだい、輪!」
 嗄れ声が、醜い老婆と共に、姿を見せた。
「あ、見つかっちゃった」
 別段、慌てる風もなく、軽い口調で、輪は言った。
 他の子供たちも――いや、子供たちは、不気味な婆婆の出現に、一斉に表情を強ばらせ、脅えるように互いの体を寄せあっている。
 流芳のペニスを銜えていた子供も、慌ててそれを口から出し、腰を擦るように後ずさった。
「見張りの奴、ナイナイに告げ口したな」
 輪は不機嫌を露に唇を歪め、流芳の後ろの蕾みに差し込んでいた指を、抜いた。
 ひっ、と短い悲鳴が、零れ落ちる。
 射精を遮っていたもう一方の手も放すと、ああっ、という喘ぎと共に、申し訳程度の、白濁した液が床に零れた。
 射精である。
 その子供に取っての幸いは、やっと果たせた快楽に、そのまま気を失ってしまったことであっただろう。
「――ったく、何てことをするんだい、おまえは!」
 怒った婆婆の姿は、普段以上に不気味であった。矍鑠かくしゃくとした足取りで、輪の前へと歩み寄り、右手を大きく振り上げる。
「空振りするから、やめた方がいいと思うけど……」
 ブンっ、と婆婆の右手が、空を切った。
 もちろん、輪は、ひょい、と避けて、平手を躱した。が――。
「あーっ。汚ねぇな、このクソババア! 針を打っただろっ」
 輪の体は、ピクリとも動かなくなっていた。
 首から腰にかけての数箇所に、鍼灸用の長い針が打ち込まれている。
 さっき、婆婆が右手を振り翳し、見事に空振りを演じた時、その針を輪に向けて投げ放っていたのだ。
 何という技を持つ婆婆なのであろうか。右手の一振りで数箇所のツボに針を打ち込み、輪の動きを封じるなど、人の為し得る技ではない。
 彼女も正しく、九龍城砦の住人なのだ。
「おまえも男娼なら、こんなところでこの子たちに射精させることが、どんなに無駄なことか解っているだろう?」
 再び右手が持ち上がった。動くことも出来ない輪を前に、婆婆は、さっき以上の力を込めて、凄まじい平手を振り下ろした。
 パシーン――っ、と派手な音が響き渡る。
「くっ!」
 輪の横っ面が、衝撃に歪んだ。
 それでも美しい面貌である。
 そして、それを見ていた子供たちは、真っ蒼になって脅えていた。今にも泣き出しそうな顔になっている。
「さて、このまま黒社会の連中にでも引き渡してやろうかね。大事な商品に手をつけるなんざ、危なくてここに置いとけやしない」
「話を聞けったらっ。ぼくは、そのチビが泣いてて可哀想だから、セックスの楽しみ方を教えてやろうと思って――」
「嘘をお言い。どうせ、昼寝の邪魔になると思って、構ってやっただけだろうが」
 すっかり見透かされている。
「いいかい、よくお聞き。この子たちの精液は、全部売り物なんだ。金と交換でなきゃ、出させはしないんだよ。精通のある子は、女みたいに、感じてるフリだけをして、男を歓ばせる訳には行かないんだからね。ちゃんと客の前で射精して、歓ばせてやらなきゃ意味がないんだ。その大事な精液を、こんなところで無駄に使っちまって――。本当に何てことをするんだろうね」
 床に零れた精液を見て、婆婆はこの世のものとは思えない顔で、苦々しく言った。
「金なら払ってやるよ」
「当然だよ。一〇倍にしてお返し」
「えーっ」
「厭なら、このまま黒社会行きだね」
「……ごうつくババア」
 輪は、ぽつり、と悪態づいた。その悪態が聞こえていたのか、いなかったのか、
「今度、この子たちに手を出してごらん。おまえのあそこを役立たずにしてやるよ」
 婆婆は恐ろしいばかりの睨みを利かし、
「おまえたちも、客の前以外で射精するんじゃないよ。手淫も口淫も承知しないからね。
イキたきゃ、客を取ってイカせておもらい」
 と、後ずさる子供たちに、一瞥を放つ。
「夢精はいいのかい?」
 輪の言葉である。
 婆婆の睨みが飛んだことは、言うまでも、ない。
「反省するまでそうしておいで。――おまえたち、輪の針を抜いたりしたら、向こう三日間、メシは食わせてやらないからね」
 と、子供には堪える言葉を残して、布の向こうへと姿を消す。
 恐ろしさよりも、不気味さの勝る姿であった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...