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拾伍
しおりを挟む「ここで何をしてるんだい、輪!」
嗄れ声が、醜い老婆と共に、姿を見せた。
「あ、見つかっちゃった」
別段、慌てる風もなく、軽い口調で、輪は言った。
他の子供たちも――いや、子供たちは、不気味な婆婆の出現に、一斉に表情を強ばらせ、脅えるように互いの体を寄せあっている。
流芳のペニスを銜えていた子供も、慌ててそれを口から出し、腰を擦るように後ずさった。
「見張りの奴、ナイナイに告げ口したな」
輪は不機嫌を露に唇を歪め、流芳の後ろの蕾みに差し込んでいた指を、抜いた。
ひっ、と短い悲鳴が、零れ落ちる。
射精を遮っていたもう一方の手も放すと、ああっ、という喘ぎと共に、申し訳程度の、白濁した液が床に零れた。
射精である。
その子供に取っての幸いは、やっと果たせた快楽に、そのまま気を失ってしまったことであっただろう。
「――ったく、何てことをするんだい、おまえは!」
怒った婆婆の姿は、普段以上に不気味であった。矍鑠とした足取りで、輪の前へと歩み寄り、右手を大きく振り上げる。
「空振りするから、やめた方がいいと思うけど……」
ブンっ、と婆婆の右手が、空を切った。
もちろん、輪は、ひょい、と避けて、平手を躱した。が――。
「あーっ。汚ねぇな、このクソババア! 針を打っただろっ」
輪の体は、ピクリとも動かなくなっていた。
首から腰にかけての数箇所に、鍼灸用の長い針が打ち込まれている。
さっき、婆婆が右手を振り翳し、見事に空振りを演じた時、その針を輪に向けて投げ放っていたのだ。
何という技を持つ婆婆なのであろうか。右手の一振りで数箇所のツボに針を打ち込み、輪の動きを封じるなど、人の為し得る技ではない。
彼女も正しく、九龍城砦の住人なのだ。
「おまえも男娼なら、こんなところでこの子たちに射精させることが、どんなに無駄なことか解っているだろう?」
再び右手が持ち上がった。動くことも出来ない輪を前に、婆婆は、さっき以上の力を込めて、凄まじい平手を振り下ろした。
パシーン――っ、と派手な音が響き渡る。
「くっ!」
輪の横っ面が、衝撃に歪んだ。
それでも美しい面貌である。
そして、それを見ていた子供たちは、真っ蒼になって脅えていた。今にも泣き出しそうな顔になっている。
「さて、このまま黒社会の連中にでも引き渡してやろうかね。大事な商品に手をつけるなんざ、危なくてここに置いとけやしない」
「話を聞けったらっ。ぼくは、そのチビが泣いてて可哀想だから、セックスの楽しみ方を教えてやろうと思って――」
「嘘をお言い。どうせ、昼寝の邪魔になると思って、構ってやっただけだろうが」
すっかり見透かされている。
「いいかい、よくお聞き。この子たちの精液は、全部売り物なんだ。金と交換でなきゃ、出させはしないんだよ。精通のある子は、女みたいに、感じてるフリだけをして、男を歓ばせる訳には行かないんだからね。ちゃんと客の前で射精して、歓ばせてやらなきゃ意味がないんだ。その大事な精液を、こんなところで無駄に使っちまって――。本当に何てことをするんだろうね」
床に零れた精液を見て、婆婆はこの世のものとは思えない顔で、苦々しく言った。
「金なら払ってやるよ」
「当然だよ。一〇倍にしてお返し」
「えーっ」
「厭なら、このまま黒社会行きだね」
「……ごうつくババア」
輪は、ぽつり、と悪態づいた。その悪態が聞こえていたのか、いなかったのか、
「今度、この子たちに手を出してごらん。おまえのあそこを役立たずにしてやるよ」
婆婆は恐ろしいばかりの睨みを利かし、
「おまえたちも、客の前以外で射精するんじゃないよ。手淫も口淫も承知しないからね。
イキたきゃ、客を取ってイカせておもらい」
と、後ずさる子供たちに、一瞥を放つ。
「夢精はいいのかい?」
輪の言葉である。
婆婆の睨みが飛んだことは、言うまでも、ない。
「反省するまでそうしておいで。――おまえたち、輪の針を抜いたりしたら、向こう三日間、メシは食わせてやらないからね」
と、子供には堪える言葉を残して、布の向こうへと姿を消す。
恐ろしさよりも、不気味さの勝る姿であった。
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