魔窟降臨伝【完結】

竹比古

文字の大きさ
上 下
12 / 65

拾弐

しおりを挟む

 ドアの代わりに、薄汚れた布だけを入り口に掛けた部屋が、壁に沿って並んでいる。
 そこは、九龍城砦に存在する、売春窟、の一つであった。
 男たちの汗と精液の入り交じった匂いが、漂っている。
 異様なその匂いは、形容し難いシミとなって、壁や床に染み込んでいた。
 部屋の中には、簡素なベッドと、淀んだ空気だけが存在している。お世辞にも清潔とは呼べないその部屋で、女や子供が客を取り、畜生以下の屈辱を受けているのだ。
 男たちは皆、醜い欲望だけを漲らせて、快楽を放ちにやって来る。女を貪り、子供を犯し、昼となく、夜となく、淫らな肉欲をさらけ出す。
 女の悲鳴、き声、悦楽の声。
 子供の叫び、涙、容赦ゆるしを乞う声。
 ここには、そんなものが溢れている。
「どこへ行く積もりなんだい、輪?」
 布の掛かる入り口とは違い、一応、木の扉のついている部屋の中から、嗄れた声が、耳に届いた。雑居ビルの通路を巡り、行き着く奈落のような場所である。
 中から、その美しい少年の姿は見えていないはずなのに、その声は迷いもなく、名前を呼んだ。
 部屋から顔を見せたのは、嗄れた声に相応しい、老婆であった。
「あれ、ここにいたのか。今日は鍼灸院の方にいると思ってたのに」
 薄気味悪い婆婆を前に、美貌の少年、輪は、悪戯を見つけられた子供のように、一応、驚いてから、そう言った。
「今から行くところだよ。あたしの留守を狙って何をする積もりだい?」
 不気味な目玉が、ぎろり、っと動いた。
「別に。自分の寝床に戻って来ただけさ。最近、黒社会の連中が血眼になってぼくを捜してるみたいだし――。一々相手をするのも面倒だから、ここで昼寝でもしてよーかな、って思って」
 その輪の言葉にも、婆婆はまだ疑い深げである。
 ふんっ、と一つ鼻を鳴らし、
「商品に手を出すんじゃないよ」
 と、ぶっきらぼうに言って、叩きつけるように、ドアを閉める。
「ほとんど妖怪だな」
 その呟きは、果たして婆婆に届いたかどうか。輪は肩を竦めて、奥へと向かった。
 廊下の両側に並ぶ部屋からは、まだ昼間だというのに、相変わらず欲望の声が上がっている。
 その廊下の隅には、見張りの男が立っていた。逃げ出す者がいないよう、常時、交替で見張っているのだ。婆婆が雇った男たちである。
「久しぶりだな。毎日こんな声を聞いてたんじゃあ、商品に手を出したくなるんじゃないのかい?」
 輪は、その男を見上げて、声を掛けた。
「ま、まさか……っ。そんなことをしたら、ナイナイに串刺しにされますから」
 男は慌てて、首を振った。
 必要以上に蒼冷めているのは、今、目の前にしている、美しい少年のせいであっただろうか。
「ふーん。溜まってんなら、ぼくが抜いてやろうか?」
「い、いえ――っ。そんな、滅相もないっ」
「女や子供の啼き声を聞くのが好きなんだろ? ぼくだってそうだ……。人が痛みに鳴き、苦しんでいる姿を見ると、たまらなく体が熱くなる。興奮して、ナイフを肌に滑らせ、赤く滲む血や、糸を引く涎を見たくなる……。もっとも、ぼくの場合、女や子供より、薄汚い男が悶え苦しむ様を見る方が好きなんだけど――。あんたみたいな」
「ル、輪様、私は――っ」
「ぼくの体を撫で回したいだろ……? 皆、そうだ。汚いペニスをぼくに銜えさせ、ぼくのケツに突っ込みたがる……。だからぼくは、そのペニスを咬みちぎってやったんだ。まだ九つの時の話だけどね。今でもペニスを切り刻むのは、一番、好きなんだ」
 男の顔は、今にも気絶しそうなほどに、真っ蒼なものに変わっていた。額には珠のような汗が浮かび、顔はヒクヒクと引きつっている。
「触らせてやろうか、ぼくのペニスに?」
「い、いえ……っ」
「遠慮することはないんだぜ。ぼくのペニスを舐めて、喘がせたいと思うだろ? ぼくのケツに突っ込んで、悲鳴を上げさせてみたいと……」
「お、お容赦ゆるしください、輪様――っ。私にはとても……っ」
 男は地べたに両手をついて、頭を下げた。
 わずか十七、八歳の少年を前に、深々と頭を下げたのだ。そして、それを恥だとも思っていない。
 それは、最も賢明な判断であっただろう。
「つまんない奴」
 輪は、プイ、とそっぽを向き、奥の階段を上り始めた。
 ひびと埃だらけの老朽化したコンクリートの階段は、彼に踏まれることを、何よりの至福にしていたに違いない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

処理中です...