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陸
しおりを挟む「あ……う……。助けてくれ……。頼む……医者を……」
今にも泣き出しそうな、哀願であった。
それを見た少年の表情が、一転して愉しげなものへと切り替わる。男が脅え、哀願する表情を見て、さっきの不機嫌も吹き飛んだのだろう。
彼は、今のこの状況を、ただ純粋に楽しんでいる。――そう。これが、彼に取っての、一番楽しい時間なのだ。
真性のサディスト、とでもいうのだろうか。人を傷つけ、苦しみ、泣き叫ぶ姿に、何よりの歓びを感じるのだ。
萎えかけていたペニスも、愛撫なしで、また硬くなり始めている。
「痛むかい?」
少年は訊いた。解り切っている問いかけであるというのに、彼はそれでも訊いてみたいのだ。今も興味津々に、男の苦痛を覗いている。何度訊いても、興奮する問いかけなのだろう。
「た……助けてくれ……」
男は、血を噴く腕を押さえることも出来ずに、ただ哀願を続けている。
「ぼくは『痛いかい』って訊いたんだよ!」
また、銀色の一線が閃いた。
「ひっ!」
男が反射的に、目を閉じる。
駆け抜けたネイルが裂いたのは、涎を吐く男の口であった。唇の端から耳までが裂け、パックリと黄色い歯を覗かせている。それはすぐに、朱色の血に染まって、色を変えた。
声にもならない絶叫が、くすんだ空間に血臭を放つ。
「これだけ口が大きければ、ぼくが訊いたことにも応えられるだろ? それとも、さっき応えられなかったのは、耳が聞こえていなかったからかい? なら、耳も広げてやらなきゃならないよな」
「やめ……っ。やめてくれっ! 応える……何でも……。だから……」
男の声は、血の泡を溢れさせて、濁っていた。
気絶できるほどの痛みでもなく、死ぬほどの傷でもない極限の責め苦は、人間を最も醜い姿に変えるのだ。
九龍城砦の路上や雑居ビルの前にたむろしていた《城内》の人間が、その少年に近づこうとしなかったのも、この異常な性癖のためであったのだろう。
彼らは、その少年がどれほど悍ましいサディストであるか、知っているのだ。彼の顔を知らない人間でも、その凄まじい美貌を一目見れば、彼が真性のサディストと謳われる人物であることは、容易に知り得る。
「ふーん。なら、これからあんたのペニスを縦に裂いてやるから、その感想も聞かせてくれよ」
少年は言った。
男の面が、これ以上はないほどに、強ばった。
「な……っ。やめ――」
「もう楽しんだんだから、役に立たなくなってもいいだろ? ここなら命に別状もないし――。先端は四つに割って、花が咲くみたいにしようかな。赤い血が花びらみたいに切り口を染めて……。想像しただけできれいだろ? 目は潰さないから、あんたにもちゃんと見せてやるよ」
少年の指先――ネイルを嵌めた指先は、早くも男のズボンを縦に切り裂き、さっき放った精液のこびりつく、汚いペニスを露にしている。
「ま、待ってくれ……っ」
「体中がゾクゾクする……。こうしてゆっくりといたぶって行くのが、ぼくの好みなんだ。――知ってるかい? 浅い苦痛をじわじわと与え続けられる人間は、声も出せずに悶え苦しむ。ネイルを薄く走らせる度に、恐怖に顔を引きつらせ、爪先を白くなるほど反り返す。その表情を見て、もう一度同じ傷口に、ゆっくりとネイルを走らせるのが好きなんだ。傷の上に傷をつけられる人間っていうのは、自分でもその様子をじっと見たがるんだ。何をされるのか不安で、目が離せないんだろうね。もちろん、ぼくはちゃんと邪魔をせずに見せてやるさ。その表情を見るのも、ぼくの楽しみの一つだからね……」
ネイルを嵌めた指先が、男の爪先から大腿部へと、浅く走る。ゆっくり、ゆっくり、一定の深さを保ちながら。
男は恐怖のために体を動かすことも出来ず、ただ爪先を捩らせて、悶えていた。
少年の左手は、自らのペニスを扱いている。
「あっ……あ……。この先を想像しただけで、イキそうになる……」
男の面は、紙のように白く変わっていた。
それでも、その双眸は、自らの体が切り裂かれて行く様を、凝視している。ベッドの上で頭を持ち上げ、狂う寸前の表情で。
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