魔窟降臨伝【完結】

※この作品に登場する『幻術師の蜃』は、連載中の『華夏帝王奇譚』に登場する『蜃』と同一人物です。

 本土への返還を一年後に控えた一九九六年六月三〇日の香港で、三年前に取り壊されたはずの魔窟、中英間の紛争の種であった無法地帯、九龍城砦が甦った。
 売春、麻薬、賭博、武器、殺人、不法入国者……あらゆる悪の温床である、東洋最大で最後のカスバが、雨と共に現れたのだ。
 北京、英国、香港当局が戸惑う中、退去させられた住人たちが、続々とその魔窟に戻り始め、再び以前以上の魔窟を形成する。
 九龍城砦で生まれた美貌の少年、真性のサディストと謳われる輪(ルン)も、その一人であった。
 そして、もう一人、魔窟の主と呼ばれる無免許の鍼灸医の老婆。
 彼ら二人の元に、伝説の幻術師、蜃(シェン)という玲瓏な青年が現れる。
 九龍城砦を破壊する、という蜃の言葉に、輪と婆婆は、自分たちの住処を守るために戦うことを決めるが、そこへまた三人、異国の旅人が訪れる。
 一人は賢者カフヴァと呼ばれる魔法使い(ドルイド)、もう一人は、グローヌと呼ばれる女魔法使い(ドルイダス)、そして、吟遊詩人(バード)のトルウ――いずれも、遠きエリンより伝えられた知恵を操る、ケルトの末であった。
 彼らの目的は、《再生の車輪》が起動したことによって甦った九龍城砦を消滅させ、元の建造物を取り戻し、在るべきものを在るべき場所へ存在させる、ということであり、そのために、九龍城砦で廻り始めた《再生の車輪》を見つけ、それを起動させた者を見つける、ということ。
 それを知った輪と婆婆も、彼らの目的を阻止するため、《再生の車輪》を捜し始める。
 輪はネイルと呼ばれるナイフと邪眼を武器に、婆婆は針と気功を武器に、カフヴァとグローヌは魔法を武器に、トルウは呪歌と竪琴を武器に、戦いを繰り広げながら、同じものを求めて行く。

※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。
※表紙画:フリーイラストの加工です。
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