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XX外伝 ――継ぐべき者たち――

継ぐべき者たち 21

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 階を車の助手席に座らせて、草も運転席に腰を下ろすと、隣に座る階の恐怖が、肌の震えと共に伝わって来た。
 指を白くなるほどに握り締め、唇を結んで固まっている。
 こんな弱々しいだけの少女が、本当にあの司の子供だ、というのだろうか。
 あの曲者のアンドルゥに育てられた、十六夜グループの後継ぎだと――。
 こんな子供に、《イースター》を守れるはずもない。きっと、周りに押し流されるだけで、自分では何一つ出来ないお嬢様だろう。
 草は車を走らせて、そんなことを考えていた。その時――、後部座席のドアが突然開き、まだスピードが出ていない車の中に、一人の青年が飛び込んできた。
「な――っ!」
 車を出した時は、バックミラーもドアミラーも確認したが、その後は階のことを考えていたため――また、こんなことが起こるなどとは予測もしていなかったため、再びミラーに注意を向けたりはしなかったのだ。
「首を折られたくなければ、路肩に寄せて止めろ」
 乗り込んで来た青年が、草の喉へと片腕を回し、背後から締め付けるようにして、言葉を放った。
「エリック……」
 階の呟きを耳に止め、車に乗り込んで来た青年が誰であるのか、草は知った。
 階の従兄、エリック・リオン・ソアー――。
 不測の事態に、草は咄嗟にポケットを探り、首を絞めつけられる苦しさの中、冷たい銃身を握り締めた。
 すると、階が――、
「離れて、エリック! この男は銃を――」
 撃つつもりなどなかったというのに、草は衝動的に銃口を持ち上げ、後部座席のエリックに向けて、トリガーを引いた。
 櫂の苦い顔が目に浮かぶようだった。
 それでも、喉を締め付けるエリックの腕が緩み、草はブレーキを踏んで車の外へと飛び出した。
「逃がすか――」
 そのエリックの声は届いたが、すぐに階がエリックの行動を止めたためか、彼が草を追って車を降りて来ることはなかった。
 完璧な計画などあり得ない。
 不測の事態は起こるべくして起こる。
 櫂の言葉は正しかったが、これでは切り返す手も、時間もない。
 建物の間を抜けて、別の通りまで走り抜けると、車のクラクションが短く鳴った。
 中に乗っているのは、櫂である。
「悪運の強さだけは、司様並みだな」
 と、軽口を叩いて、不敵に笑う。
 もちろん、階のことである。エリックに助けられた運の強さを言っているのだ。
 やはり、どう見ても楽しんでいるように見える。
 草は車の助手席に乗り込むと、
「クソっ! 咄嗟に銃を使った……」
「聞こえたよ。――当たったのか?」
「いや。追いかけて来ようとしてたから、外れたんだろう」
 ――もし、当たって、殺していたら……。
 そう考えると、今更ながらに震えが走る。
「警察に通報されたら――」
「しないさ。ダッシュボードにヘロインを仕込んでおいた。アンドルゥ様に先に連絡を取るだろうから、その意味を深読みして通報はしない」
「――意味?」
 草は訊いた。
「ヘロイン所持使用の疑いで身体検査をされるのは困るだろ、階様のあの体では」
〈XX〉だと知られる訳にはいかないのだ。そうでなくとも、財閥のトップがトルソーだ、などという噂が流れたら、命取りになる。
「次の手を考えないと……」


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