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番外編 エリック編
エリック編 32
しおりを挟む道は舗装してあるとはいえ、日本の高速道路とは訳が違う。もちろん、未舗装のひどい砂利道を思えば、雲泥の差だが。車の良し悪しでその乗り心地も天と地ほどの開きがある。
これ以上のものはない車に乗り、舗装された道を静かに走っても体に負担がかかるのだから、妊婦に対しての認識が甘かったとしか言いようがない。
やはり、カブールから五〇〇キロの道程を、休憩を取りながらとはいえ、走り続けることには無理があるのだ。
「考え込むのは良くないよ、フェリー。普通の生活をしてたって、起こる時は起こるんだから」
そう言ってアールが気遣えば、
「よくもそうやって毎回毎回、本人が反省する機会を奪えるものだな」
と、櫂が横から口を挟む。
もちろん、どちらが正しくて、どちらが間違っているという問題ではなく、どちらの言っていることも正しいのだが――ケンカになってしまうのである。
そして――。
「チェスか何かで、静かに決めてくれないかなァ……」
今日も呆れて、階は言った。
何だか自分の方が大人になったように感じる数日間でもあった。
そして、その衝撃は、何の前触れもなく、突然、目の前に訪れた。
《英国防省が十日に明らかにしたところによると、五日、南部ヘルマンド州での自爆テロで負傷を負ったアフガニスタン従軍英国兵士の内、一名が収容先の病院で死亡――》
「これ……エリックのいる駐留部隊のことじゃないよね……」
絶対安静のため、寝ているだけの暇な時間に開いた携帯端末を見ての言葉であった。
そこには、数日前の自爆テロの事件が記されている。
ヘルマンド州には、多くの英国駐留部隊がいるとはいえ、その記事には、どの部隊であるのかまでは、記されていない。
「――自爆テロ? まさか! もしエリックがいる駐留部隊なら、アンディが先に気付いて確認してるって」
端末を覗きこんで、アールが言った。
その傍ら、
「ハッ、どうだか。――俺がアンドルゥなら、その記事に気付いた時点で確認を取って、『それはエリックの部隊じゃないから安心しろ』って、すぐに連絡をしている。その連絡が入らないってことは――」
櫂がそこまで言った時だった。
まるで、その櫂の言葉を聞いていたかのように、アンドルゥから連絡が入り、
「ネット上に流れた自爆テロの記事は、エリックのいる部隊じゃない。今、確認が取れたから安心しろ」
と、聞き慣れた声が、安堵を告げた。
階はホッと頬を緩め、それでも、
「本当に? ――死者一名って、英国兵なのは間違いないんだよね……?」
と、記事の内容を問いかける。
「ああ……。別部隊だから面識はない。――体調はどうなんだ? 動けないようなら、空路を確保してやる」
「ううん。もう出血も止まったし、別に痛くも何ともないんだけど、アールが厳しくて」
いつものアンドルゥの過保護ぶりに笑みを零し、階はその後も少し話しをして、心の不安を取り除くように、端末を閉じた。そして、
「――櫂は、アンディの行動まで、全部解るんだ……」
と、言った通りの連絡があったことに、櫂を見つめた。
もちろん、櫂が階を不安にさせるために、あんなことを言ったのでないことも、解っている。
――今なら、解る。
櫂は、アンドルゥから必ず連絡が入る、と踏んでいたから、あんな言葉を口にしたのだ。
不安を晴らすには、何よりも上手いやり方であったに違いない。
アンドルゥならこうするはずだ、と第三者に言われた後で、当の本人から連絡が入れば、疑いは瞬く間に晴れてしまう。
だが、それなら……。
「櫂は、アンディがぼくに本当のことを言うと思ってる?」
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