367 / 443
番外編 ローレンス編
ローレンス編 17
しおりを挟む「ラリー! ラリー――! ロード・ウォリックが来たよ。ラリーに用だって! 慰謝料の取り立てじゃないの?」
下の階まで聞こえているのではないかと思うような大きな声で、フィリップが言った。
「……何で、おまえが一々言いに来るんだ? シアーズの使用人になったのか?」
皮肉を込めて睨み返し、それでもまた突然のアンドルゥの来訪に、気が滅入る気分で腰を上げる。――と、
「グレヴィル家総出なんだけど」
「はぁ?」
フィリップの言葉に眉を寄せ、ローレンスは訝しい思いで階下へ降りた。
――グレヴィル家総出、ということは……。
サロンに入ると、そこにはアンドルゥだけでなく、階やエリックも共に待っていた。そして、ローレンスの顔を見ると、
「――何だ、その顔は?」
「ラリー! だから冷やした方が良いって言ったのに!」
「えーと、そんなに強く殴ったっけ……?」
と、アンドルゥ、階、エリックのそれぞれが、それぞれの言葉を口にする。
あれから五日経ったのだが、ローレンスの左頬は、まだ微かな腫れと内出血の痕が残っていた。
「馬鹿力で思いっきり殴っておいて、よくそんなことが言えるな? ――ロード・ウォリック、慰謝料の催促なら、そこの馬鹿に食らった分の治療費と慰謝料を差し引いてもらいますよ」
ローレンスは言った。
何しろ、この五日間、ずっとこの顔で仕事をして、行く先々で恥をかいて回ったのだ。出来るだけ表には出ないようにしていたのだが、やはり、ローレンスが顔を出さなくてはならない場所も、幾つかはある。
「慰謝料って……?」
その階の問いに応えたのは、アンドルゥだった。
「僕と離婚したいそうだ」
「え……? 嘘っ! どうしてそんな――っ」
――君が原因だよ。
とは、とても言えず、ローレンスは、
「まあ、色々と、ね」
と、曖昧な言葉で受け応えた。そして、
「今日はその話ですか?」
と、アンドルゥの方へと、視線を向ける。
「そんなことはどうでもいいが――ああ、この二人は勝手について来たんだ」
――どうでもいい? これだけ振り回され、弟には散々からかわれたというのに。
「春に心臓の手術を予定していたんだが、階は十六夜のことで手一杯だし、エリックは、今からグレヴィルの事業のことを覚える暇はとてもない。軍務もあることだし――。あと、グレヴィルと病院を行き来できそうなのは、おまえくらいだろう?」
「は……?」
「取締役たちを病院と仕事場の往復に使う訳にはいかないだろう? かといって、携帯端末だけでは仕事にならない。どう考えても、足で行き来する人間が要る」
「それを、僕にしろ、と?」
そう問いかけながらも、選択の余地などないであろうことは、よく解っていた。桂は当然、階に付きっきりになるだろうし、階自身も学位授与式が終わるまでは大学院生であり、日本との行き来と挙式の準備に時間を取られる。アールは臨床実習で忙しいし、他の人間にアンドルゥが病気であることを知らせるわけにはいかない。ウォリック伯爵が病気で入院し、手術を受ける、とでも噂が流れたら、取り引きをしている企業からは、今後の経営を危ぶまれてしまう。会長が死んだら、グレヴィルの事業は破綻する。今、あそこと取り引きをしては、危ないことになりかねない、と……。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる