327 / 443
番外編 プレップスクール編
プレップスクール 12
しおりを挟む「俺は、心配と不安の毎日だったよ……」
階と一つになったまま、エリックは遠い日を見るように、言葉を零した。
「うん……。ごめん」
「駄目だ。許さない……」
何度も慈しむように唇を重ね、エリックは、階の体を優しく責めた。
零れる吐息が、切ない喘ぎが、昂る想いを急きたてる。
「や……、待って……! エリック――」
「駄目だ」
「エリック……!」
薄茶色の瞳が、すがるように、エリックを見つめる。そんな顔をされてしまうと、聞かない訳にはいかなくなる。
「何だよ……?」
速い呼吸で問いかけると、
「アンディが――」
「あいつの名前なんか出すなよ。萎えるだろ」
「でも……」
「何?」
「子供が出来ないようにしてもらえ、って――。まだ結婚もしてない、学生なんだからって」
「はあ?」
――ここまで来て言うか、そんなこと……。
だが、〈XX〉は自然妊娠するのだ。当人にとっては、何よりも重大な問題だろう。それにしても……言うタイミングが間違っている。まさか、このタイミングで言え、とアンドルゥに言われた訳ではないだろうが。
「ごめん……。やっぱり、ちょっと緊張してたのかな。言うのを忘れてた」
邪気のない顔で言われては、もうそれ以上は何も言えない。
「他には何も忘れてないだろうな?」
「多分……」
この無防備さで、よくも無事に寄宿生活が送れたものだ。
「ちゃんと出来ないようにするから、心配するな……」
もう、邪魔が入らなければいいのだが……。
このメンバーでルーム・シェアをして、無事に一年、過ごせるのだろうか。
トルソーに否定的なライアンと、女性的な要素であるアニマの強いルーク、そして、ルークから見れば同類に見えるらしい階と、その面倒をみるように、アンドルゥから脅しつけられているエリック――。
アニマが強いと、男子生徒の前で着替えるのも恥ずかしいのか、ルークは寝る前も、個室のシャワーで着替えてから部屋に戻るか、誰もいない時に着替えるか、で、朝も早起きをして、皆が目を覚ます頃には、すっかり身支度を整えている。そして、階も――。
やはり、ルークの言うように、階も女性的な要素が強いのだろうか。
もちろん、ストレートには訊けないが、
「隠れて着替えてたら、誤解されるだろ?」
と、エリックが言うと、
「アンディがそうしろ、って言うから……」
階はそう応えるだけで、うつむいてしまった。そして、ハッと気がついたように、
「あ、アンディのことは言っちゃいけないんだっけ」
と、口を押さえた。
「……俺と二人の時は構わないさ」
四人部屋なのに、襲われる心配でもしているのだろうか。あのアンドルゥの過保護ぶりなら、そうであってもおかしくはない。ここはプレップ・スクールで、周りは子供ばかりだというのに……。
次の週末に、エリックが、その不自然さはからかいの対象になる、とアンドルゥに伝えると、アンドルゥは少し黙り、
「階には言っておくが、おまえがかばえ」
「はあ? どうやって、ですか?」
「おまえも隠れて着替えたらどうだ?」
「……。どうせなら、二人部屋にしてくれれば、手間がなかったのに」
「おまえと階を二人部屋に? 冗談じゃない」
「……」
やはり、そう言う気を回していたのだ。もちろん、エリックの歳にもなれば、大人の話も理解できるし、恋愛の真似ごとのような感情も持っている。
だが、だからといって、まだ子供の集まりであるプレップ・スクールで、感情以上のものを求めようなど……。
「これからは普通に着替えさせます。こんなことでからかわれるほうが可哀想だ」
エリックは言った。
すると、アンドルゥは、
「……まあ、まだ大丈夫だろう。僕から話しておく」
理解できない言葉を呟いて、その話しを終わらせた。
アンドルゥが、階にどういう話し方をしたのかは不明だが、翌週から階は、皆がいる部屋の中でも着替えるようになり、背中を向けてではあるが、不自然に隠れて着替えることはなくなった。
だとすると、階はやはり女性的な要素が強いのではなく、アンドルゥに言われたから、そうしていただけ、だったのだろうか。
なら、アンドルゥは何故そんなことを――いや、アンドルゥの考えることがエリックに解るくらいなら、とっくに答えも出ているだろう。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる