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番外編 オックスフォード編

オックスフォード 24

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「本当に、合理的で、あなたらしい。ラリーがそれでいいのなら、僕はそれで構わないですけど」
 肩を竦めるようにして、エリックが言った。
「ローレンスは同意の上だ。階の側にいられて、階の子をシアーズの家にもらえるのなら、構わない、と」
「ぼくの……子って?」
 勝手に進むアンドルゥの話しに、階は再び疑問を向けた。
「前にも話した通り、僕には生殖能力がない。この家には、もう僕と君しかいないし、君の卵子をもらう以外に、僕には子供を残す手段がない。――嫌か?」
 そんな言い方をされれば、階に拒むことなど出来はしない。ずるい言い方だとは解っていても、アンドルゥがそれを望むのなら……。
 いや――。
「ラリーは? ラリーは本当にそれで?」
 まだ何も言っていないローレンスに、階は訊いた。
「ああ……。君と一緒にいられて、君と僕の子を抱けるのなら、それでいい。僕もアールと同じように、結婚は結婚で割り切るさ」
 ローレンスは言った。
「形だけ、ってこと?」
「君の肉親を悪く言うつもりはないが、一番、避けたいタイプだ」
 その隣で、アールが、
「父との約束があって良かった……」
 と、ホッとしていたことは、言うまでもない。間違っても結婚相手になど選びたくはない人物なのである。その性格だけでなく、何を比べられても見劣りするのだから。
「そう……だよね。アンディがラリーを選ぶなんて――」
「選ぶものか。君とエリックが甥である以上、ローレンスしか残っていなかっただけのことだ。選択の余地などなかった」
 憮然とした顔で、アンドルゥは言った。
「ラリーが甥で、エリックが他人だったら?」
「同じように、エリックと結婚するさ。楽しくもないが」
「僕には地獄です」
 心底、厭な顔で、エリックが言った。
 何故だか急に可笑しくなり、階は堪え切れずに吹き出してしまった。
 こんなことを受け入れてしまって、いいのかどうかは判らない。それでも、つい、笑っていた。
「やっと、笑ったな……」
 アンドルゥが言った。
「うん……。だって、おかしい」
「そうだな」
「うん」
 結局、今回のことで判ったことは、アンドルゥが本当に親バカで、階のためだけに、全てを手に入れてくれた、ということ――。そして……。いや、その前に――。
「階、おまえ……意味が解って――ないよな、きっと」
 エリックの言葉に、
「ん? 何が?」
 階が無邪気に首を傾げる。
 やはり、何も解っていない。
 ローレンスも、アールも形だけの結婚で階のものになる、というのなら、エリックでさえ形だけの結婚で、二人と同じ立場になる、ということだ。それは、すなわち……。
「いや、いい……」
 そんな面倒な説明は、全てを仕組んだアンドルゥに任せてしまった方がいい。
「変なの」
 階が言うと、アンドルゥが、
「こいつらがいる間は、僕の部屋で休むといい。まだ、卒業までは誰にも何も許さない。手を出されて、何かあっては困るから、な」
「はあっ?」
 と、それぞれの不満の声が上がったが、階はその『誰にも』の意味さえ解っていないようで、
「アンディの部屋で寝ていいの?」
 と、子供の頃のように、目を輝かせた。
「何で、俺たちといるより嬉しそうなんだ?」
「え? そ、そうかな? だって……あんまり会えないし、アンディの部屋で一緒に寝たことってないし……」
 エリックの不満に口ごもりながらも、階はそれでも浮足立つ心を隠せず言った。
 他の誰もが緊張して、足がすくむ相手であろうと、階には唯一の親代わりたる肉親――それ以上の存在なのだ。
「ハードル……高いよな……」
 それは、ここにいる誰もが思っていたことであっただろう。
「誰が越えられるんだよ、一体……」
 それでも――。
 それだからこそ……。


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