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XX Ⅲ

XX Ⅲ-25

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 イートンも、いよいよ冬休みに入る。
 迎えに来た、たくさんの保護者たちで溢れる中、階も、アンドルゥと桂を見つけて、手を振った。
 そこかしこで、
「やめてよ、恥ずかしい」
 と、親のキスに顔をしかめたり、久しぶりに会う我が子にハグとキスで迷惑がられ、不満そうな顔をする保護者達の姿が見受けられた。
 アンドルゥは、いつものように肩に軽く手をかけて、髪に口づけるだけで、桂も、
「おかえりなさいませ」
 と、嬉しそうに目を細めるだけで、階はそう恥ずかしい思いをすることもなく、家に帰れそうな気配だった。
 あれから、アールは特に告白の返事を迫るでもなく、今までと同じように接してくれ――もちろん、それに甘えていてはいけないのかも知れないが、それでも、ホッとしながら過ごしていた。
 ただ、ローレンスは――あれから顔を合わせてはいない。もともと学寮ハウスも違うし、学年も違うのだから、偶然に会うことも少ないのだが……。
「誰かを探しているのか?」
 アンドルゥにそう訊かれ、階は、ハッとして視線を戻した。気がつくとそうして探しているのだ、彼――ローレンス・シアーズを。
「ううん。――エリックのところも迎えに来てるのかな、と思って」
 取り繕うように、階は言った。
「それは来てるだろう。――気になるのか?」
「そういう訳じゃ……」
「来て欲しいのなら、クリスマスに呼べばいい」
「ほんとに、そんなんじゃないから」
「……あいつもそうだといいが」
「え?」
 アンドルゥの呟きは、階には小さ過ぎて、聞き取れなかった。
 結局、ローレンスの姿を見つけられないまま、階は車に乗り込んだ。
「――スウェーデンの〈XX〉、助からなかったんだね」
 車が走り出すと、階は、ずっと気になっていたそれを、口にした。
「ああ……。発見された時には、もう全身転移メタで、どうにもならなかった」
「……ぼくは、いつまで大丈夫なの?」
「――」
「その人はいくつくらい? お母さまと同じくらいだった?」
「階……」
「ごめんね。困るよね、そんなこと訊かれても」
 いつもは忘れていても、〈XX〉が死んだと聞かされれば、自分が期限付きの命であることを思い知らされるのだ。
 この体もいつか、そう遠くない日に、あの癌を発症して死んでしまうのだと……。
 アンドルゥの手が、階を抱き寄せて、微かに震える。
「……泣かないで、アンディ。ぼくは大丈夫だから」
 確かに、癌の発症を抑制し、遅らせることは出来ている。発症後も、採取したNK細胞――ナチュラルキラー細胞を活性化させ、増殖させ、また体に戻して、癌細胞を攻撃させるところまでは適っている。
 だが、癌の進行が早過ぎるのだ。免疫細胞の中でも、特に癌細胞を攻撃するのに優れた攻撃力を持った免疫細胞でも、追いつかないほどに――。
 長く生きられた者も、発病後に完治した者も、まだ誰ひとりとして、存在しない。司でさえ、発病後、わずかで死んでしまった……。
「司を守ると言ったのに、守れなかった……。その上、君まで……。僕は……」
「大好きだよ、アンディ……。ぼくがアンディと結婚できたらよかったのに」
「階……」
「本当だよ。だから、そんな顔しないで、アンディ……」
 子供は、ある日、突然、大人になってしまう。それともこれは、彼が〈XX〉だから、なのだろうか……。


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