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XX Ⅲ
XX Ⅲ-22
しおりを挟む――初恋……。
「……お母さまも、お父さまに会って、こんな気持ちだった?」
部屋に戻り、ベッドの上に寝転がって、階は口に出して、言ってみた。
どうしようもなく胸が苦しくて、思い出すと息がつまりそうだったり、恥ずかしくて顔が真っ赤になったり……。今日は夕食もあまり食べられなかった。
アンディは――怒るだろうか。
でも、キスしか、していない。キスしか――それ以上は、出来ない。多分、ずっと……。
そう考えると、きゅっと、胸の奥が痛んだ。
ドアに、いつもと同じノックが届いた。開ける前から、誰だか判る。
返事をすると、
「フェリー、自習室で一緒に自習しないか? ノートも持ってきたし」
と、アールが顔を出す。
「うん、今、行く」
階もノートと筆記具を持ち、二人は自習室へと場所を変えた。
皆、仲のいい者同士、上級生は上級生、下級生は下級生で、それぞれ自習したり、話をしたりしている。
二人が自習を始めると、他にも二人、同学年の生徒が隣に掛けて、
「やあ、フェリー、もう大丈夫なのか?」
と、階を気遣いながら、同じように自習を始めた。もちろん、この年頃なのだから、すぐに勉強とは違う話の方が多くなる。
「――で、あいつ、そのトルソーに誘われて、やったんだって」
内容も、まあ、この年頃では仕方がない。
「それで、どうだったって?」
その手の話は、興味津津である。
「すごくいいんだってさ。男同士でやるのが馬鹿らしいって――。中流階級以下で、トルソーが珍しくないのが何故か、よく解ったって言ってた」
「ヘェ、そうなんだ。でも、上流階級の中でだって、結婚は男と、セックスはトルソーと、なんてよくある話じゃないか。――なあ、フェリー?」
「え? さあ……」
「おまえんちは、グレアムが――」
「馬鹿! 余計なこと言うなよ」
アンドルゥの兄――ウォリック伯の次男であるグレアムは、身分の低いトルソーとの結婚を反対されて、家を出たのだ。
「ぼく、ちょっと……」
階は、ノートを抱えて、席を立った。
「あ、フェリー――」
アールも一緒に、席を立つ。
「おまえが余計なことを言うからだぞ」
「悪かったよ。でも、あいつ、前からこういう話になると、どっかに行くじゃないか。――おまえがこの話をしたんだからな」
そんな話を後ろに聞いて、
「気にするなよ、フェリー。あいつも悪気があったわけじゃ……」
「解ってる。ただ……苦手なんだ。ああいう話」
何故そういう話をしたいのか、解らないのだ。誰がどうしたとか、どうだったとか……。菁に訊くと、十代の半ばなどやりたい盛りで、セックスの話がほとんどだった、というけれど、それも男と女の違いなのだろうか。
ローレンスも――彼もそうやって、学寮で階とのキスのことを話しているのだろうか。――いや、学寮でそんなことをしたら、懲罰ものだ。話したりはしないだろう。
「フェリーは興味がないわけ? 好きな奴とか、そういうのは……」
――好きな……。
アールの言葉に、階は白い頬を朱に染めた。
勝手に、ローレンスの顔が頭に浮かぶ。
「別に、そんな……」
「ぼくは、君が好きだ」
「え……?」
アールの黒い瞳が、真っ直ぐに階を見つめていた。いつもの学友の見慣れた顔が、知らない大人びた顔に見える。
「やっぱり、気付いてなかったよね。何か、フェリーって、本当にみんなに大事に育てられた箱入り息子みたいな感じで、そういうことに疎そうだったし……」
「うん……。ごめん」
「いいよ。――エリックが好きなのか?」
「エリック? ぼくが?」
「いや、違うならいいんだけど。彼じゃ、勝ち目ないし――」
「……」
「ノート、貸しておくよ。もう部屋に戻るだろ?」
「うん、ありがとう」
――今日は色々なことがあり過ぎて、眠れないかも知れない……。
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