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番外編 アンドルゥ編
アンドルゥ編 1
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11世紀、ノルマンのウイリアム征服王が城塞を築き、19世紀以来、王室の離宮となったウインザー城――。
この街の西には、貴族の館が点在し、南に田園、東に森林……テムズ河畔を中心に、美しいヴィクトリア朝の街並みが広がっている。
そして、城の北――テムズ川沿いに建つ英国名門寄宿学校、イートン――。ゴシック風のチャペルや、美しい校庭は、数多くの有名人、著名人を世に出してきた。
二五もの学寮を持ち、第三学年級から上下級第六学年級(2年)まで、五歳の年齢差のあるものが、それぞれの学寮に暮らしている。一学年につき十人前後として、五・六十人が一緒に暮らしている計算になる。
その学寮の一室で――。
「今度、入って来た生意気な下級生、っていうのは、こいつか」
上級生らしい三人が、まだ入学したての幼さを留める第三学年級の生徒を囲み、部屋の隅へと追い立てた。
柔らかい金髪と、碧い瞳の、随分ときれいな少年である。背だけはひょろっと伸びているが、華奢な手足や首筋は、手折れば砕けるガラスの花のように繊細だ。
だが、三人の上級生に囲まれているというのに、怯える訳でもなく、蒼ざめてもいないその顔は、余計に上級生たちの神経を逆なでしていた。
「おい、何とか言ってみろよ。下級生は、上級生に従うためにいるんだろうが!」
上級生の一人が胸倉をつかみ、ダン――っ、と後ろの壁に押し付けた。
「く――っ!」
短い苦鳴が、喉から零れた。
それでもまだ、怯えはない。嘲笑すら含むように、唇の端を歪めている。
「……これでお終いなら、帰らせてもらうけど」
そう吐き捨てる言葉さえ。
「こいつ――!」
上級生たちが、本気になった。
学寮内は、完全なる縦社会だ。いつの時代も上級生たちが権力を握り、下級生たちを使役してきた。パンやコーヒーを持って来させたり、雑用をさせたり、という召使のような扱いはもちろん、時には虐めの対象にもなったりする。もちろん、舎監を除いて、あとは十代の多感な年頃の子どもたちばかりが、集団で生活しているのだから、性欲のはけ口となることも、ある……。
良家の子息がほとんどというこの名門校でも、それは何ら変わりなかった。
「ウォリック伯爵家の御曹司なら、特別扱いをしてもらえるとでも思っていたのか?」
上級生は、さらに下級生の襟元を締め上げた。
クス、っと、人を小馬鹿にするような笑みが、零れ落ちた。
「ぼくは一言も、伯爵家の人間だと名乗った覚えはないけど」
カッ、と、上級生たちの頬が、紅潮した。同時に、握り締めたこぶしが、下級生の横っ面に炸裂する。
「ぐ――!」
床の上に投げ出され、下級生はその痛みと痺れに、呻きを上げた。殴られることにさえ、怯えてはいないのだ。でなければ、あんな言葉は吐けないだろう。
上級生たちが、その周りをゆっくりと取り囲んだ。
「アンドルゥ・F・グレヴィル――。素直に謝っておけばよかったと、後悔することになるぞ」
制服のズボンの前を開き、上級生は、アンドルゥ・F・グレヴィル、と呼んだ下級生の足を開かせた。
「ゲス……だな」
「安心しろ。おまえにもいい思いはさせてやるさ。その、声変り前のボーイ・ソプラノで、いっぱい啼いてくれよ……」
暴力はもちろん、十代の少年たちには、性的欲求も抑えることが出来ないものであった。特に〈XX〉が絶滅し、〈XY〉だけとなった、この世界では……。
この街の西には、貴族の館が点在し、南に田園、東に森林……テムズ河畔を中心に、美しいヴィクトリア朝の街並みが広がっている。
そして、城の北――テムズ川沿いに建つ英国名門寄宿学校、イートン――。ゴシック風のチャペルや、美しい校庭は、数多くの有名人、著名人を世に出してきた。
二五もの学寮を持ち、第三学年級から上下級第六学年級(2年)まで、五歳の年齢差のあるものが、それぞれの学寮に暮らしている。一学年につき十人前後として、五・六十人が一緒に暮らしている計算になる。
その学寮の一室で――。
「今度、入って来た生意気な下級生、っていうのは、こいつか」
上級生らしい三人が、まだ入学したての幼さを留める第三学年級の生徒を囲み、部屋の隅へと追い立てた。
柔らかい金髪と、碧い瞳の、随分ときれいな少年である。背だけはひょろっと伸びているが、華奢な手足や首筋は、手折れば砕けるガラスの花のように繊細だ。
だが、三人の上級生に囲まれているというのに、怯える訳でもなく、蒼ざめてもいないその顔は、余計に上級生たちの神経を逆なでしていた。
「おい、何とか言ってみろよ。下級生は、上級生に従うためにいるんだろうが!」
上級生の一人が胸倉をつかみ、ダン――っ、と後ろの壁に押し付けた。
「く――っ!」
短い苦鳴が、喉から零れた。
それでもまだ、怯えはない。嘲笑すら含むように、唇の端を歪めている。
「……これでお終いなら、帰らせてもらうけど」
そう吐き捨てる言葉さえ。
「こいつ――!」
上級生たちが、本気になった。
学寮内は、完全なる縦社会だ。いつの時代も上級生たちが権力を握り、下級生たちを使役してきた。パンやコーヒーを持って来させたり、雑用をさせたり、という召使のような扱いはもちろん、時には虐めの対象にもなったりする。もちろん、舎監を除いて、あとは十代の多感な年頃の子どもたちばかりが、集団で生活しているのだから、性欲のはけ口となることも、ある……。
良家の子息がほとんどというこの名門校でも、それは何ら変わりなかった。
「ウォリック伯爵家の御曹司なら、特別扱いをしてもらえるとでも思っていたのか?」
上級生は、さらに下級生の襟元を締め上げた。
クス、っと、人を小馬鹿にするような笑みが、零れ落ちた。
「ぼくは一言も、伯爵家の人間だと名乗った覚えはないけど」
カッ、と、上級生たちの頬が、紅潮した。同時に、握り締めたこぶしが、下級生の横っ面に炸裂する。
「ぐ――!」
床の上に投げ出され、下級生はその痛みと痺れに、呻きを上げた。殴られることにさえ、怯えてはいないのだ。でなければ、あんな言葉は吐けないだろう。
上級生たちが、その周りをゆっくりと取り囲んだ。
「アンドルゥ・F・グレヴィル――。素直に謝っておけばよかったと、後悔することになるぞ」
制服のズボンの前を開き、上級生は、アンドルゥ・F・グレヴィル、と呼んだ下級生の足を開かせた。
「ゲス……だな」
「安心しろ。おまえにもいい思いはさせてやるさ。その、声変り前のボーイ・ソプラノで、いっぱい啼いてくれよ……」
暴力はもちろん、十代の少年たちには、性的欲求も抑えることが出来ないものであった。特に〈XX〉が絶滅し、〈XY〉だけとなった、この世界では……。
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