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番外編 司編
司編 17
しおりを挟むウォリック伯に紹介されたのは、アーサー・ソアー陸軍大将の末子で、アレックス・ソアーという、アンドルゥより二歳年上の青年だった。琥珀色の髪と同色の瞳は、気楽な三男坊らしく、少し楽天的な印象を映している。
アフターヌーン・ティを囲みながら、ウォリック伯はそれぞれを紹介し、階もきちんと挨拶が出来た。そして今、五人はそれぞれに、当たり障りのない話を続けていた。
五人――ウォリック伯と、アレックス、司、階、アンドルゥの五人である。
ディナーの席ではないので、皆、軽い装いだが、それでも礼儀はわきまえている。この場で不必要な話はしない、ということも――。
「アンディ、おじいさまが、あとで外に行ってもいいって――。また衛兵交替式を見に行っていい?」
「あれは十一時半の一回だけだ。また明日でないと、見に行けない」
階とアンドルゥのその会話に、
「なんか、君が子供に懐かれてるっていうのも、変な感じだよなァ。そういうキャラだったっけ?」
アレックスは言った。
「……。前に会ったことがあったか?」
と、アンドルゥ。
「はあっ? そういや、そういうキャラだったよな、確か」
アンドルゥの厭味な態度に、アレックスはそのふてぶてしさを思い出して、憮然と言った。学年が違ったとはいえ、同じイートンの生徒だったのだ。もちろん、話しをすることも、ほとんどなかったが。
「ミスター――。アンディのおにいさま、なんでしょう?」
覗きこむように愛らしい眼差しで、階が言った。地上に天使がいるとしたら、まさしくこんな姿だっただろう。確かにクリスの面影も留めているし、目の前の日本人少年の面差しも受け継いでいる。薄茶色の髪と瞳も、光に透けて、柔らかい。
「アレックスでいい。――まあ、兄なんだけど、クリスみたいに――君のお父様みたいに、一緒に暮らしていた訳じゃないからな」
「おとうさまとアンディは、ずっといっしょ?」
「ん……そう言われると……。クリスとアンドルゥは一回りも年が離れてるし、アンドルゥが生まれる前から、クリスはもうプレップ・スクールの学寮に入ってたんじゃないかな。その後はイートンの学寮、オックスフォードの学寮だし……。なあ、アンドルゥ?」
二人がこの屋敷で一緒に暮らしていた期間など、ほんのわずかなものだったに違いない。もちろん、休日には帰って来ていた訳だし、その時は兄弟として過ごしていただろうが。
「そうだな」
アンドルゥにしても、そうとしか応えようのない問いかけだった。クリスとは休日に会うだけの兄弟だったのだから――。だが、それでもクリスは、確かに優しい兄だった。
「君は……一人っ子なんだよな。クリスはもういないし――。あ、ごめん」
迂闊にも口から出てしまったその言葉に、アレックスは慌てて口を塞いだ。
階は気にしている風でもないが、ウォリック伯の表情が、わずかに変わった。
「――フェリックス、十六夜のお父様と一緒に、遊んで来なさい」
と、これからする話から遠ざけるように、静かに言った。
そして、司と階がいなくなったその席で、肝心の話しは始まったのだ……。
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