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番外編 司編
司編 15
しおりを挟むあの日、アンドルゥと約束した、五年の月日はあっという間に過ぎ、階は五歳に、アンドルゥは、あの時の司の歳を追い越して、二一歳になっていた。
夏にはまた、クリスの墓参りを兼ねてイギリスに訪れ、ウォリック伯爵邸に滞在していた。
ますます愛らしく、クリスの面影を映す階に、あの厳しいウォリック伯でさえ頬を緩め、何をしても寛容だった。
「アンディ、おかあさまは――」
「おとうさま、だ、階」
「……でも、だれもいないのに」
「それでも、だ。――君と司は特別なのだから……」
「うん……」
アンドルゥが『おかあさま』とうい呼び方を教えた訳でもなく、ましてや司が教えた訳でもない。無論、桂もそんな呼び方は教えていない。
だが、子供は覚えてしまう。〈XX〉の体を持つ者は、そういう風に呼ぶのだと――。
寝室で、昼寝から覚めた階は、桂に着替えを手伝ってもらい、早速、外に出たいと言い張った。
「もう少しご辛抱ください、階様。今日はこれから、ウォリック伯のお客様がお見えになるのです。ご挨拶をしていただかなくては困ります」
そう窘められてもまだ不満げで、
「あいさつをしたら、外にいってもいい?」
「ロード・ウォリックがいいとおっしゃるのなら」
「じゃあ、おじいさまにたのんでくる」
「あ――、階様!」
桂が呼ぶ声にも足を止めず、階は早くも部屋から飛び出していた。
「――ったく……」
アンドルゥは溜息をつき、
「悪いな、桂。また君が父に怒られる」
と、桂を気遣う。
「慣れていますから。――アンドルゥ様もお支度をなさってください」
ラフなシャツとボトムという普段着のアンドルゥに、桂は言った。もちろん、普段着でも構わないのだが、階と一緒に横になっていたために、しわくちゃだ。
「すぐ上の兄が来るだけだ」
「まだ反抗期ですか?」
「……解ったよ」
すぐ上の兄とはいっても、グレヴィル家の兄ではなく、もう一人の父、アーサー・ソアー陸軍大将の家にいる兄で、兄弟というほどの付き合いもしていない。
「私は、司様を捜してきます」
桂の言葉に、
「部屋にいないのか?」
「あの方も外がお好きですから――。どこかの涼しい木陰にでもいらっしゃるのでしょう」
「治療後は、部屋で休むように言ってあるのに……」
アンドルゥは、眉をしかめた。
「閉じ込めておける方ではありません」
「そうだな……」
治療、といっても、司自身の癌抑制因子を採取して、培養強化し、また司の体に戻す、というもので、必要なものは、司自身の血液のみ――。本当は、より効果的と思われる階の抑制因子を使いたいのだが、司はそれを拒み続け、今日にいたるわけである。
もちろん、それでも何もしないよりはいいのだろうが……。
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