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XX Ⅱ
XX Ⅱ-25
しおりを挟むそれから数日――。
意外にもアンドルゥは、週末だから、という理由で、当然のようにカナダの屋敷に姿を見せた。寄宿生だからと言って、週末の度に自宅以外への外泊許可が下りるとは思えないが、彼のように成績が優秀だと、多少の無理は通るらしい。そして、校長の弱みを握っていると、大抵の無理は通るのだと……いかにも、アンドルゥらしい、やり方である。
そして、考えてみれば、彼はまだ十六歳の学生で、あの時、司が咄嗟にイートン校へ向かおうとしたように、逃げも隠れもできない立場なのだ。
「階――ですか」
子供の名前を聞いて、
「いいですけど、英国名ももらいませんか? こんなに僕にそっくりなのに」
と、抜けるような白い頬を、指先で突っつく。
薄茶色の髪と瞳が、色素の薄い柔らかな面影を映している。
「君じゃなく、クリスに似てるんだよ」
「同じでしょう? 僕とクリスは兄弟なんですから」
本当に悪びれた風もなく、アンドルゥは階の頬に口づけた。そして、そのまま司の唇にも口づける。
「そこまでだ」
頭に銃口を突き付けて、菁がアンドルゥの言動を睨みつけた。そして、
「君も少しは抵抗したらどうだ、司?」
と、されるがままの司を睨みつける。
「ぼくが? この体で?」
非力なうえに、産後でロクに動けない、不自由極まりない体を示して、司は言った。――いや、その辺りのチンピラになら負けるつもりはないが、このメンバーの中では、卑屈にもなる。
もしかすると、アンドルゥもそうなのかも知れない。〈XXY〉として生まれたために、背丈だけは伸びても、筋肉は付きにくく、力も劣る。もちろん、鍛えていない人間に比べれば、劣ることのない力だが、刄や菁には及ばない。そして、父たるウォリック伯のように、貫禄ある口ひげを生やすことも適わない。
まるで、司が抱えて来た悔しさや苛立ちと、同じではないか。
「都合のいい時だけ女になるな。――さあ、話を聞かせてもらおうか」
ドカっと司のベッドの脇に腰かけて、菁が再び、アンドルゥを睨みつけた。
「そうですね……。少し話をしなくては、とは思っていました」
えらく素直な反応である。
「まず、司の臍帯血を何に使ったんだ? 恵まれない吸血鬼にでも寄付したか?」
菁の訊き方は、一言多い。
「ぼくが話すから、口を挟むなよ」
そう言って、司は菁の質問を繰り返した。すると、
「まず――、父に、あなたとの結婚の許しをもらいました」
アンドルゥは言った。
「はあっ?」
「クリスの子がいるのなら、と――。父も、僕に子供が作れないことは知っていますからね。それでも、生殖細胞は、もう一人の父、イギリス陸軍士官アーサー・ソアー大将のところにいるすぐ上の兄のものを使えばいいと、僕を爵位継承者にした訳で――」
「話が違うだろ。ぼくは――」
「聞いてください。順番があるのですから」
「……。何の順番だ? 君に都合のいい順番か?」
司は訝しさを顕わに、アンドルゥを睨みつけだ。その学生らしい口調とスタイルで、この間は迷いもなく刄を撃ったのだ。
「そう絡まないでください。父の承諾は僕も嬉しくて、まず一番に報告したかったのですから。――僕もあなたも、自分の意思だけでは結婚できない立場でしょう? 父を説得し、グレアムを宥めて――。ああ、話が逸れてしまいますね」
アンドルゥはそう言って、
「僕は、初めてあなたを知った時から、あなたに恋をしていました。ですが、その時には、十六夜秀隆氏は、すでにクリスをあなたの相手と決めていて……」
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