上 下
117 / 443
XX Ⅱ 

XX Ⅱ-25

しおりを挟む


 それから数日――。
 意外にもアンドルゥは、週末だから、という理由で、当然のようにカナダの屋敷に姿を見せた。寄宿生だからと言って、週末の度に自宅以外への外泊許可が下りるとは思えないが、彼のように成績が優秀だと、多少の無理は通るらしい。そして、校長の弱みを握っていると、大抵の無理は通るのだと……いかにも、アンドルゥらしい、やり方である。
 そして、考えてみれば、彼はまだ十六歳の学生で、あの時、司が咄嗟にイートン校へ向かおうとしたように、逃げも隠れもできない立場なのだ。
きざはし――ですか」
 子供の名前を聞いて、
「いいですけど、英国名クリスチャン・ネームももらいませんか? こんなに僕にそっくりなのに」
 と、抜けるような白い頬を、指先で突っつく。
 薄茶色の髪と瞳が、色素の薄い柔らかな面影を映している。
「君じゃなく、クリスに似てるんだよ」
「同じでしょう? 僕とクリスは兄弟なんですから」
 本当に悪びれた風もなく、アンドルゥは階の頬に口づけた。そして、そのまま司の唇にも口づける。
「そこまでだ」
 頭に銃口を突き付けて、菁がアンドルゥの言動を睨みつけた。そして、
「君も少しは抵抗したらどうだ、司?」
 と、されるがままの司を睨みつける。
「ぼくが? この体で?」
 非力なうえに、産後でロクに動けない、不自由極まりない体を示して、司は言った。――いや、その辺りのチンピラになら負けるつもりはないが、このメンバーの中では、卑屈にもなる。
 もしかすると、アンドルゥもそうなのかも知れない。〈XXYモザイク〉として生まれたために、背丈だけは伸びても、筋肉は付きにくく、力も劣る。もちろん、鍛えていない人間に比べれば、劣ることのない力だが、刄や菁には及ばない。そして、父たるウォリック伯のように、貫禄ある口ひげを生やすことも適わない。
 まるで、司が抱えて来た悔しさや苛立ちと、同じではないか。
「都合のいい時だけ女になるな。――さあ、話を聞かせてもらおうか」
 ドカっと司のベッドの脇に腰かけて、菁が再び、アンドルゥを睨みつけた。
「そうですね……。少し話をしなくては、とは思っていました」
 えらく素直な反応である。
「まず、司の臍帯血を何に使ったんだ? 恵まれない吸血鬼にでも寄付したか?」
 菁の訊き方は、一言多い。
「ぼくが話すから、口を挟むなよ」
 そう言って、司は菁の質問を繰り返した。すると、
「まず――、父に、あなたとの結婚の許しをもらいました」
 アンドルゥは言った。
「はあっ?」
「クリスの子がいるのなら、と――。父も、僕に子供が作れないことは知っていますからね。それでも、生殖細胞は、もう一人の父、イギリス陸軍士官アーサー・ソアー大将アドミラルのところにいるすぐ上の兄のものを使えばいいと、僕を爵位継承者にした訳で――」
「話が違うだろ。ぼくは――」
「聞いてください。順番があるのですから」
「……。何の順番だ? 君に都合のいい順番か?」
 司は訝しさを顕わに、アンドルゥを睨みつけだ。その学生らしい口調とスタイルで、この間は迷いもなく刄を撃ったのだ。
「そう絡まないでください。父の承諾は僕も嬉しくて、まず一番に報告したかったのですから。――僕もあなたも、自分の意思だけでは結婚できない立場でしょう? 父を説得し、グレアムを宥めて――。ああ、話が逸れてしまいますね」
 アンドルゥはそう言って、
「僕は、初めてあなたを知った時から、あなたに恋をしていました。ですが、その時には、十六夜秀隆氏は、すでにクリスをあなたの相手と決めていて……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...