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XX Ⅱ
XX Ⅱ-13
しおりを挟む寝苦しかった。
日本に帰り、菁も香港へ戻り、桂もやっと一人でいられるようになったとはいえ、腹部が目立つようになってきた体では、生活はさらに不自由になった。コートで隠せる季節にはなったが、屋内に入ればそれも意味のないことで、夜、一人でベッドに入っても、大きくなり始めた腹部が邪魔で、うつぶせになることも出来ず、かといって、仰向きになって寝ることも辛い。さりとて、横向きでい続けるのもひどく疲れる。
今から思えば、菁に半身を預けて眠っていた日々は、体の負担が軽かったのかもしれない。
そう思いながらも、日々の疲れと精神的な疲弊で、いつしか眠りについていたのだろう。
それでも――眠りながらでも、苦しかった。
手足がだるく、腰が痛む。
腹部が苦しい。
そんな時、誰かが傍で見守っている気配が、した。
「ドク……?」
声に出して呼んだのかどうかは、判らない。
少し体が軽くなり、だるさと圧迫感が引き始めた。
抱き枕……だろうか。呼吸が楽になって行く。
司はそのまま、朝まで眠った。
翌朝――。
目が醒めると、目の前に眩しい金髪があった。
背中を向けているため顔は見えないが、司の体は、その金髪の少年を抱き枕にするように、重なっていた。
「まさか、ドクが置いて行くわけないよな……」
そう呟き、
「どうやって屋敷に入り込んだんだ?」
と、枕の下のナイフを取り出し、少年の首筋に押しつける。
「あふ……」
と、呑気に欠伸をし、少年――アンドルゥは、
「着いたのが遅かったので、声をかけずに失礼しました。僕は泥棒ではないので、ちゃんと玄関から――。週末、イートン(英国の名門全寮制寄宿学校)を出て、すぐにここへ向かったのですけど、さすがに日本は遠くて、夜中になってしまったので」
と、悪びれた風もなく、ましてやナイフを気にするでもなく、言葉を返す。
まだ背中向きのままではあるが、ナイフの冷たさは感じているはずである。
「解った。なら警察へ突き出すだけだ」
司は言って、枕もとのベルを鳴らした。
「え――。冗談でしょう?」
アンドルゥは、ガバっとベッドに体を起こして、司の方を振り返ると、
「あなたが随分、寝苦しそうだったから、僕が体を半分支えたら楽になるかと思って、ほんの親切で――」
「頼んでいない」
司はナイフの切っ先を、アンドルゥの喉に宛がった。
「司様――!」
ベルを鳴らしてから僅かな時間で、刄が部屋へと駆けつけて来る。恐らく、司の体に何か異変があったのか、と心配してのものだっただろう。侵入者がいるとは思ってもいなかったようで、アンドルゥの姿を目に止めると、その場にわずかに、立ち尽くした。
「一体、どうやって屋敷に……」
と、司と同じ疑問を口にする。
部外者が簡単に入り込めるようなセキュリティではないのだ。
「深夜に玄関が開いていたそうだ」
司は言った。
「そんなはずはありません。すべて確認して、セキュリティをかけたのですから」
刄は言った。
「なら、やっぱり警察だ」
司の言葉に、
「待ってくださいって! 僕は皆を起こすのも悪いし、と思っただけで、司さんにも何もしてないし――。ほら、制服も着たままだし」
アンドルゥは、少し皺になったイートンの制服を示して見せた。
黒の燕尾服に、チョッキ、ファルスカラー、ピンストライプのズボンにタイ――どうやら、学寮からそのまま来た、ということだけは本当らしい。
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