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XX Ⅰ

XX Ⅰ-25

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「――どうかしたかい、司?」
 わずかな空白を見つけるように、クリスが訊いた。
 司に初潮が訪れた時、刄もそんな風に、心配そうに見つめていた。
「……結婚する、って言ったのを後悔してたんだよ」
 司は言った。もちろん、冗談になるように――。
「はしゃぎ過ぎたのは反省するよ。結婚しよう、司。子供は要らない。――いや、君が欲しければ、養子をもらえばいい。必ず幸せにする……」
 優しい口づけが髪に落ち、目を瞑ると、クリスの口づけが瞼に移った。そのまま、少し開いた唇に優しく重なり、首筋へと滑り降りる。
 ゆかたの襟が撫でるように開かれ、柔らかい乳房に、そして、桜色の乳首に舌が這った。
 司はその心地よさに、喉を反らした。
「あとどれくらいで起きられる?」
 愛撫を解き、はだけた襟元を直して、クリスが訊いた。
「このまま抱かないのかい?」
「その顔色で何を言ってるんだか――。取り敢えず、顔色が良くなったら、食事だ。先にシャワーを浴びて来る」
「……」
「君がぼくに気を遣う必要はない。クリスマスが楽しいのは、待つ楽しみがあるからだよ」
 軽く笑い、クリスはバスルームへと、姿を消した。
 金色の髪の残像が、朝陽の中に、眩しく、残る。
 司はその残像を消すように、腕を、翳した。
 下肢の奥に、まだ昨日の異物感が残っている。体が覚えているのか、記憶が覚えているのかは、判らない。叫びすら上げることが出来なかった痛みも、体の中に留まっている。すぐに止まると思っていた出血が、その思いに反して止まらなかったことも、今日の朝に影響していたのだろう。
 柊が刄に何を言ったのかは判らないが、その柊の言葉を鵜呑みにし、司に何も尋ねず、力任せに体を開いた刄の行為が、今も胸に冷たく残っていた。刄だけは、決して司を傷つけたりしない人間であったはずなのに。
 あれから、顔を合わせることもなく、朝――。
「結局、ぼくは、お父さまほど彼に信頼されていた訳ではなかった、ということか……」
 司は自嘲のように、呟いた。
「何か言ったかい、司?」
 濡れた髪をかき上げながら、クリスが邪気のない笑顔で姿を見せる。
「何でも……。もう少し寝ていたい」
 ――もう少し、一人でいたい……。
「ああ、構わないさ」
 ――もう少し、だけ……。


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