21 / 443
XX Ⅰ
XX Ⅰ-20
しおりを挟むいつの間にか、司の部屋に戻っていた。
ベッドに寝転がっていた司が、小さな顎を持ち上げる。
「柊は何だって? ぼくを説得するようにでも言われたか?」
と、いつもと変わりない瞳で、刄を見上げる。本当に、いつもと何も変わりない姿だった。だからこそ、余計にカッとなったのかも、知れない。
「どうかしたのか、ドク?」
戸惑うように首を傾げる司を、刄は衝動的に、そして、強い力で、体の下に組み敷いていた。
「ドク――っ!」
目を瞠る司に構わず唇を塞ぎ、強引に舌を絡ませる。
「ん……!」
司の瞳が、さらに大きく見開いた。
華奢な手が、刄の肩をつかんで、押し戻そうと激しくもがく。
ボタンが飛び、白い肌が、光の中に浮かび上がった。
「やめ――っ!」
服を剥ぎ取り、刄は乱暴に指と舌で肌を責めた。
司の体が、水面に弾ねる若鮎のように、刄の腕の中で暴れ回る。その動きを封じるよう、刄は、司の舌を強く吸った。
「ん……」
司が苦しげに、刄の胸を叩きつける。
巧みに絡む舌先と、桜色の乳首を擦る指先に、司の瞳が、揺れ、惑った。官能を昂める指と舌に、司の体は確かに応え始めて、いた。応える術を知っているのだ。官能の取り入れ方も、ぎこちないながらも、覚えている。そして、それを教えたのは、クリス、だろう。
舌を解き、刄は首筋から乳房へと、舌を落とした。柔らかい乳房を手でつかみ、その先端を口に含む。小さな乳首に舌を立てると、司の体が、また、違った反応を示した。
「や…め……っ!」
強ばる声に耳を貸さず、刄は司の足を大きく開いた。その狭間に顔を埋め、震える花びらに舌を伸ばす。
「ドク――っ!」
司が体を強張らせた。初めての時の痛みを覚えていたせいだっただろうか。そこで得られる快楽を知らず、痛みを与えられることに、脅えている。
刄は、その敏感な蕾に舌を立てた。
「――! や……あ……っ」
ビクン、と司の体が反応した。蕾に伝わる舌の動きに、まだ、体は戸惑っている。それでも、呼吸は徐々に速くなった。刹那、途切れては、また苦しそうに、肺に酸素を取り入れる。
もう抵抗は見られなかった。巧みな舌に追い詰められた官能が、体の疼きを素直に伝える。まだ自分では達し方も判らない体が、慣れた舌に導かれる。
呼吸が止まり、司が達したことが、刄にも判った。
虚空を見つめる虚ろな瞳と、肌に伝わる激しい鼓動に、刄は、自らを司の葩へと突き立てた。――刹那、
「くぅっ!」
苦鳴が漏れ、白い肢体が強張った。今まで柔軟に応えていたというのに、突如、現実世界に連れ戻されたように、貫かれる痛みを訴えたのだ。
――え……?
刄はそれ以上のことも出来ず、動きを止めた。
司の瞳が、刄を捕える。
中は随分きつかった。刄を受け入れた時、かなりの痛みがあったのだろう。まるで、男を受け入れたことなどないように……。
「……これで満足したのか?」
司が言った。静かなだけの響きだった。
「私……は……」
「柊に何を言われたのかは知らないが……これで納得できたのか?」
「……」
返す言葉は、何も、なかった。刄は、貫いた体から、ゆっくりと、離れた。我に返り、やっと自分が何をしたのかを理解していた。今まで大切に育てて来た体が――信頼が、音を立てて崩れて行くような気が、して、いた。
司がベッドに体を起こす。
「痛――っ!」
歯を食いしばるような苦鳴が、上がった。
シーツに、赤い染みが、落ちる。
「司様――っ」
「触るなっ!」
刄の手は、刹那に強く振り払われた。
「これで気が済んだのなら、出て行け……。初めての時に出血することくらい、知っている。おまえの手当は必要ない」
「……」
初めて……。
解けない氷が、喉の奥に、深く、沈んだ。
「申し訳……ございません……」
唇を噛み締め、刄は部屋を後にした。他にどうすることが出来た、というのだろうか。生まれながらの貴族としての気品を持つクリスと比べられたことに卑屈になり、自分が知らない間に司の体が変えられてしまったことに、カッとなり――いや、変えられてしまったと思って、カッとなり、柊の罠に堕ちたのだ。
重い雲のかかる空が、真っ二つに、割れた。それは、春雷の名残のような、稲妻、であっただろうか……。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる