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XX Ⅰ

XX Ⅰ-20

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 いつの間にか、司の部屋に戻っていた。
 ベッドに寝転がっていた司が、小さな顎を持ち上げる。
「柊は何だって? ぼくを説得するようにでも言われたか?」
 と、いつもと変わりない瞳で、刄を見上げる。本当に、いつもと何も変わりない姿だった。だからこそ、余計にカッとなったのかも、知れない。
「どうかしたのか、ドク?」
 戸惑うように首を傾げる司を、刄は衝動的に、そして、強い力で、体の下に組み敷いていた。
「ドク――っ!」
 目を瞠る司に構わず唇を塞ぎ、強引に舌を絡ませる。
「ん……!」
 司の瞳が、さらに大きく見開いた。
 華奢な手が、刄の肩をつかんで、押し戻そうと激しくもがく。
 ボタンが飛び、白い肌が、光の中に浮かび上がった。
「やめ――っ!」
 服を剥ぎ取り、刄は乱暴に指と舌で肌を責めた。
 司の体が、水面に弾ねる若鮎のように、刄の腕の中で暴れ回る。その動きを封じるよう、刄は、司の舌を強く吸った。
「ん……」
 司が苦しげに、刄の胸を叩きつける。
 巧みに絡む舌先と、桜色の乳首を擦る指先に、司の瞳が、揺れ、惑った。官能を昂める指と舌に、司の体は確かに応え始めて、いた。応える術を知っているのだ。官能の取り入れ方も、ぎこちないながらも、覚えている。そして、それを教えたのは、クリス、だろう。
 舌を解き、刄は首筋から乳房へと、舌を落とした。柔らかい乳房を手でつかみ、その先端を口に含む。小さな乳首に舌を立てると、司の体が、また、違った反応を示した。
「や…め……っ!」
 強ばる声に耳を貸さず、刄は司の足を大きく開いた。その狭間に顔を埋め、震える花びらに舌を伸ばす。
「ドク――っ!」
 司が体を強張らせた。初めての時の痛みを覚えていたせいだっただろうか。そこで得られる快楽を知らず、痛みを与えられることに、脅えている。
 刄は、その敏感な蕾に舌を立てた。
「――! や……あ……っ」
 ビクン、と司の体が反応した。蕾に伝わる舌の動きに、まだ、体は戸惑っている。それでも、呼吸は徐々に速くなった。刹那、途切れては、また苦しそうに、肺に酸素を取り入れる。
 もう抵抗は見られなかった。巧みな舌に追い詰められた官能が、体の疼きを素直に伝える。まだ自分では達し方も判らない体が、慣れた舌に導かれる。
 呼吸が止まり、司が達したことが、刄にも判った。
 虚空を見つめる虚ろな瞳と、肌に伝わる激しい鼓動に、刄は、自らを司の葩へと突き立てた。――刹那、
「くぅっ!」
 苦鳴が漏れ、白い肢体が強張った。今まで柔軟に応えていたというのに、突如、現実世界に連れ戻されたように、貫かれる痛みを訴えたのだ。
 ――え……?
 刄はそれ以上のことも出来ず、動きを止めた。
 司の瞳が、刄を捕える。
 中は随分きつかった。刄を受け入れた時、かなりの痛みがあったのだろう。まるで、男を受け入れたことなどないように……。
「……これで満足したのか?」
 司が言った。静かなだけの響きだった。
「私……は……」
「柊に何を言われたのかは知らないが……これで納得できたのか?」
「……」
 返す言葉は、何も、なかった。刄は、貫いた体から、ゆっくりと、離れた。我に返り、やっと自分が何をしたのかを理解していた。今まで大切に育てて来た体が――信頼が、音を立てて崩れて行くような気が、して、いた。
 司がベッドに体を起こす。
つう――っ!」
 歯を食いしばるような苦鳴が、上がった。
 シーツに、赤い染みが、落ちる。
「司様――っ」
「触るなっ!」
 刄の手は、刹那に強く振り払われた。
「これで気が済んだのなら、出て行け……。初めての時に出血することくらい、知っている。おまえの手当は必要ない」
「……」
 初めて……。
 解けない氷が、喉の奥に、深く、沈んだ。
「申し訳……ございません……」
 唇を噛み締め、刄は部屋を後にした。他にどうすることが出来た、というのだろうか。生まれながらの貴族としての気品を持つクリスと比べられたことに卑屈になり、自分が知らない間に司の体が変えられてしまったことに、カッとなり――いや、変えられてしまったと思って、カッとなり、柊の罠に堕ちたのだ。
 重い雲のかかる空が、真っ二つに、割れた。それは、春雷の名残のような、稲妻、であっただろうか……。


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