捨て犬の神様は一つだけ願いを叶えてくれる

竹比古

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幸せになる願い

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 1カ月、2カ月、3カ月……。
 半年、1年、2年……。

 ――毎日、毎日、幸せだった。

「いいんだよ、トイレまで行かなくても、ここで……」

 ――ダメよ……。ちょっと歩くのに時間がかかるけど、おしっこはトイレでするの……。


「いい仔だね、本当に……」

 ――今日もほめてもらっちゃった……。



 ――もう動けない……。
 ――立ち上がることも……出来なくて……。

 そんな時、誰かが傍にそっと立った。

『神さま……? どうしてそこにいるの? わたし、どこにも捨てられてないわよ』

 それは、あの日――捨てられた日に見た、捨て犬の神様。

『そうですね。でも、まだあの時のあなたの願いを叶えていませんでしたから』
 神さまは言った。
『捨てられた時の?』
『ええ。捨てられた犬の願いをひとつだけ叶えるのが私の役目です』
『わたし、死ぬの……? あの時、死にたい、ってお願いしたから……?』
『……。今のあなたの願いも同じですか?』
『叶えてくれるの? なんでも?』
『ええ』
『本当に?』
『本当ですとも』
『どんな願いでも?』
『ええ。どんな願いでも、ひとつだけなら……』
『じゃあ、お願い、神さま……』



 玄関チャイムのなる音、ドアの開く音――。
 あの人が静かに立ち上がって、歩いて行く。
「彩夏……! どうして……?」
 びっくりしたような声。

 ――来てくれたのね。

「ごめんなさい、私……。あの仔は?」
「……。入って」

 ――あの時の人。
 ――わたしが拾われて間もない頃に、怒って出て行った、あの寂しそうだった人……。

「……病気なの?」
「大丈夫だよ。人に移ったりは――」
「ごめんなさい。こんな時に戻って来て――。でも、どうしても会いたくて――。あの日のことを謝りたくて……」
「彩夏……」


 ――神さま、ありがとう。ちゃんと私の願いを叶えてくれたのね。

『いいのですか? 私には、もう少しあなたの時間を引き延ばすことも出来るのですよ』

 ――ううん、わたしはとっても幸せだったもの。
 ――たくさんたくさん幸せをもらったもの。
 ――だから、これで充分なの。

『わかりました』
 神さまは優しく微笑んだ。

 捨て犬の神様は、捨てられた犬の願いを一つだけ叶えてくれる。

 だから……。

 だから、神さま、お願い……。

 わたしが死んでも、あの人が一人ぼっちになりませんように……。




                   完



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みんなの感想(1件)

2019.01.02 ユーザー名の登録がありません

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2019.01.02 竹比古


 月邑桜さん、読んでいただきありがとうございます。
 いつもほぼR指定ばかりを書いていて、童話や児童書などを書くガラではないのですが、亡き愛犬に背中を蹴飛ばされて(え? 蹴飛ばしてない?)……。

 動物の病気は、ものを言わない分、辛いですよね。
 昔と違って犬猫も今は家族の一員で、身近に動物病院が増えたことで色々な病気が発見されて。
 人それぞれ考え方はあると思いますが、治療をすることで元気でいられる時間が延びるのなら、それも一つの選択であると思っています。
 月邑さんとワンちゃんに、これからも楽しい思い出がたくさん出来ますように!

解除

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