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想い出づくり
しおりを挟む「429,800円になります」
「さあ、帰ろう。一週間、よく頑張ったね」
――ひどいわ! ひどいわ! こんなに放っておいて!
――でも、うれしくて、うれしくて、そんなこと全部忘れちゃった!
――そうそう、この匂い、この感触、ずっと待ってたんだから!
「ずっとおとなしくておりこうさんだったんですよ。こんなにはしゃぐ姿を見るのは初めてです」
――ふ、ふんっ! わたしのことを誰にでも尻尾を振る尻軽女だと思わないでちょうだい!
「そ、そうですか、ちょっとはしゃぎすぎ――ですよね。傷が痛くないのかな?」
「人間のように痛みに対する先入観がないですからね。――ごはんも毎日全部食べてくれましたし、元気ですよ」
――ま、まあっ! そんなことバラさなくてもいいじゃない! まるでわたしが食い意地の張った女みたい!
「家でも、ごはんは即、完食です」
――ひどいわ! もっとデリカシーのある言い方をしてよ!
――でも、やっぱりうれし過ぎて、そんなことなんかどうでもいい。
――やっと家に帰って、いっしょにいられるんだもの。
――やっぱり、ここが最高!
――ドライブの後はトイレよね、トイレ。
「車では我慢しちゃうよねぇ、ごめんごめん。いい仔だね、本当に」
――ふふ。やっぱり褒めてもらえる。何回だって、いつまでだって。
「ご機嫌だね。――っていうか、ステロイドのせいでちょっとハイだね」
――そうなのよ。やたらとおなかは空くし、気分がいいの。
「傷を掻かないように、服を着ておこう。夏じゃなくてよかった」
――これ、着なくちゃダメ? ちょっときゅくつ……。
「すぐに慣れるよ。お洋服を着ても可愛いねぇ」
――当然よ!
「抜糸が終わったら、また公園に行こうね」
――芝生のある遠い方の公園ね!
「45,800円です」
「39,000円です」
「51,200円です」
「37,400円です」
「薬のせいで、毛が減っちゃったね」
――そうなのよ。長い毛は残ってるからあまりわからないでしょうけど、下生えのふわふわ毛が減っちゃったから寒くて!
「でも、薬のお陰で元気になったね。――このまま、貯金が底をつくまで一緒にいられたら……」
――ん? なあに? 何か言った?
「車に乗って、芝生のある公園に行こう」
――寒いけど、まあしょうがないわねぇ。付き合ってあげてもいいわよ。
――なんて、つい、しっぽを振っちゃうわ。
――大好きなんだもの、いっしょに行く公園が。
――遠慮なく近づいてくる子供は苦手だけど。
こんな風に――。
「おかあさん、あのワンワン、毛が少ないねー」
「そうね。ちょっと寒そうね。病気かしら」
――ふんっ。ひとのことは放っておいてちょうだい。
「ごめんよ、何も言ってあげられなくて……」
――え? 何? なんのこと?
「毛がふさふさになったら、また公園に行こうな」
――毛? あなた、そんなことを気にしていたの?
――毛が多かろうと少なかろうと、わたしのかわいさに変わりはないわよ。
――あなた、毎日『カワイイ』って言ってくれるじゃない。
――わたし、それだけで幸せなのに!
――ここでの生活は楽しくて、ずっといっしょにいられるだけで幸せなの。
――いろいろな『しつけ』も大好き。だって、あなたが歓んでくれるから。
――だから、毎日、毎日、とても楽しい!
――病院通いさえなければね。
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