捨て犬の神様は一つだけ願いを叶えてくれる

竹比古

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ほめられる

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 家に帰ると、すぐにトイレ。
「外でしたことがないから、我慢してたんだね」
 あの人は言った。
 そして、またたくさん喜んでくれた。
 何をしても褒めてくれた。
「お手。――こうして手を乗せるんだよ。――上手だねェ!」

 ――そ、そう? こんなことで喜んでくれるの?

「おかわり」

 ――わたしが何かするとうれしいの?

「おすわり」

 ――すわるだけ?

「じゃあ、一番大事な『まて』――これが出来ないと、外に出た時に事故に遭ってしまったりするからね。何回も練習しよう」

 ――目の前のごはんをがまんするの?
 ――歩き始めるのをがまんするの?
 ――そうしたらまたほめてくれるの?
 ――こんなにいつもよろこんでくれるの?

「しつけは叱ることじゃなくて、一緒に喜んで成長することなんだよ」

 ――わたし、『しつけ』大好きよ。
 ――ほめてもらえるのが一番うれしい!
 ――叱られるのは、怖くてイヤ。
 ――叩かれるのは、痛くてイヤ。


 ここでは、おしっこをしても怒られない。
 たのしい散歩にも連れて行ってもらえる。
 わたしが何かするたびによろこんでくれる。
 でも……。
「爪切りだよ」

 ――これは、イヤ!

「だめだめ。散歩くらいじゃ、爪が伸びるのに追いつかないんだから」

 ――どうせ切られちゃうけど、最後まで抵抗!

「さあ、終わり」

 ――次からはしないんだから!
 ――あら、歩きやすくて、爽快。
 ――でも、しないんだから!



「何、その犬?」

 ――誰かしら、この人?
 ――怖い声。

 勝手に入って来て、わたしとこの人をにらみつけて――。

「もう犬は飼わないって言ったじゃない! 結婚して子供が出来たら、家の中にペットがいる環境は子供にだって悪い影響が出るかも知れないのよ! あなたも『ちま』ちゃんが死んでから、もう飼わないって言ったはずでしょ!」

 ――そんなに大声で怒鳴らないで。

「違うんだ。この仔は捨てられていて、死にそうになっていて……」
「じゃあ、元気になったら里親を捜すのね?」
「……」

 ――そうなの?
 ――わたし、またどこかにもらわれて行くの?

「このまま飼うつもりなの?」
「賢い仔なんだよ。トイレも失敗したことがないし、マテも出来るし――」
「解ったわ。あなたなんかその犬と好きなようにすればいいのよ――!」
 ドアの閉まる大きな音。
 その向こうに消える後ろ姿。

 ――でも、怖い声なのに、寂しそうだった。

「ごめんよ。びっくりしただろう?」

 ――わたし、また悪い仔だったの?

「心配しなくていいからね」

 ――ほんとう?

「全部、僕が悪いんだ……」



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