捨て犬の神様は一つだけ願いを叶えてくれる

竹比古

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叶わなかった願い

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 ふわり、と暖かい手が、静かに自分を抱き上げた。
 神さまの手は、こんなにもやさしく、あたたかい。――そう思ったのだが、
「誰がこんなところに――!」
 更に暖かくて柔らかいものが、体を包んだ。

 ――神さま?

 目を開けると、知らない青年が厳しい顔つきで自分を見ていた。
 体は、大きな服に包まれている。
「良かった。もう大丈夫だからね」
 少しも良くない。今まさに神さまに願いを叶えてもらうところだったのに――。

 ――神さまは……?

 神さまの姿はどこにもなかった。
 このままでは、もう願いを叶えてもらえなくなってしまう。
 とっさに、目の前の青年に唸りを上げ、最後の力を振り絞って噛み付いた。
「うわっ!」

 ――これできっと願いは叶う……。

 もう、辛くて悲しい想いをするのは厭だった。
 そして、心地よい暖かさのままに眠ってしまった……。



 目が醒めたのは知らない場所だった。
 神さまの元に召されるということは、考えることすらできない死の眠りにつくことだと言われたのに、ここはどうやらそんな処ではないらしい。
「目が醒めたかい? ここは病院だよ」
 さっき噛み付いてやった青年が言った。

 ――さっき……。

 もしかすると、思っていたよりもずっと長く眠っていたのかも知れない。
 段ボールの中で震えていたような寒さはどこにもなく、体がずいぶん軽くなっている。
「起き上がるのはまだ早いよ。もうすぐ点滴が終わるから、そうしたら家に帰ろう」

 ――家に?
 ――家ってどこの家?
 ――お母さんや兄弟たちがいた家?
 ――わたしを段ボールに入れて置き去りにした人がいた家?

「しばらくは病院に通うことになるけど、僕の家に来てくれると嬉しいなぁ」

 ――わたしを拾ってくれるの?
 ――ううん。最初はみんなそう言うけど、すぐに怒ったり、叩いたりするから――。
 ――自分が悪いのはわかっているけど、どうしたらいいのかわからないから。


 でも、その人は嬉しそうにわたしを連れて帰って――。



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