捨て犬の神様は一つだけ願いを叶えてくれる

竹比古

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捨て犬の神さま

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 あれから数カ月――。
 わたしは捨てられた。
 段ボールの箱は蓋が閉じられ、そこからは雨が浸み込み、体温がどんどん奪われて……。
「ごめんね。いい人に拾ってもらってね」
 それが最後の言葉だった。
 泣いてたけど――。わたしも泣いた。わたしの方が、もっと、鳴いた。いつまでも、いつまでも、段ボールの中で鳴き続けた……。

 どれくらい鳴き続けただろうか。
「お母さん、犬だよ」
 段ボールが開き、小さな子供が姿を見せた。
 場所は知らない公園だった。
 知った匂いは何処にもなかった。
「ダメよ。うちでは飼えないから、そんなモノ拾わないでね」

  ――モノ、ってわたしのこと?

「でも――」
「マンションで飼えるわけないでしょ。それに、もう弱ってるじゃないの。病院代はどうするの?」
「……」
 二人はすぐに何処かへ行ってしまった。
 鳴き疲れて、そのまま眠ってしまった……。


 そんなわたしのもとへ――。


『人間に捨てられてしまったのですね』
 優しく温かい光と共に、天上から尊い神さまの声が聞こえた。そして、神さまはわたしにこう言った。
『私は人間に捨てられた動物の願いを、一つだけ叶えることが出来ます。あなたの願いは何ですか? 元の飼い主に戻って来てほしいですか? それとも新しい飼い主に拾われたいですか?』
 神さまの言う願いは、どれも違った。

 ――どうかわたしを神さまのもとに召してください。

 そう言うと、
『私の元に――ということは、あなたはここでの生を終えて、死んでしまうということですよ?』

 ――はい、わかっています。

 わたしは言った――が、
『いいえ、解っていません。死ぬということは、苦しいことや哀しいことから解放される代わりに、楽しいことも嬉しいことも失くしてしまうということです。いいえ、それ以前に、そんなことを考えることすらできなくなってしまう――『無』ということです』
 これまで見て来たどんな人々の表情よりも哀しそうな顔で、神さまは言った。

 ――それでかまいません。

 それ以上の願いなど、どこにもなかった。
『……解りました』
 神さまの声と共に、目を瞑った。



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