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キメラ - 翅
神の終焉 2
しおりを挟む「……何だ、この血液は? 何の血液なんだ?」
事故で運ばれて来た少年の輸血のため、採血をし、血型を調べていた検査室のスタッフは、ヒトのものとは思えない結果を前に、思わず口に出して呟いた。
その頃、ERの一角でも、同じ驚きの言葉が呟かれていた。
「……何だ、これは?」
雄性生殖器官も雌性生殖器官も持たない体――こんな不思議な体を目にすることになるなど――。
事故で運ばれて来た少年だったが、ダンプに撥ねられ、全身を強く打ち、今、呼吸があるのも不思議な状態だった。
いや、救急隊員が駆け付けた時には心肺停止状態で、ほぼ即死であっただろうと思われた。
だが、蘇生したのだ。
この病院のERに着く前に。
「クソっ。この忙しい時に役人と話をしなきゃならないのか」
この少年が普通でないことは一目で判る。そうでなくとも身元が解らない以上、公的機関に問い合わせなくてはならないし、身体的な特徴からして、善からぬことが絡んでいる可能性もある。
政府の研究だったりしたら、もっと厄介なことになるかも知れないが、ここで解決できることではないのだから、仕方がない。
「ともかく、CTだ」
この少年がヒトでないなど、まだ誰も考えてはいなかったのだ、ヒトでない部分を目の当たりにしても……。
「ふぅ。予定外のオペ二つ分、臨時ボーナスもらわなきゃ」
すでに日付が変わった深夜、ゲルトルーデのオペを終え、再びドナの様子を見に来て、エルヴィラ・ハイゼンベルクは不満そうに言った。大きく伸びをしながらのその言葉は、あれだけの異常事態の後でも、緊張感がない。
「私は少し寝るけど、あなたたちはどうするの?」
と、同じようにドナの様子を見に来た、椎名とエディに問いかける。
「ここから出してくれるつもりがあるのなら、ホテルへ戻る」
椎名は言った。
ドナの様子は気になったが、オペは成功したし、ホテルに残して来たサンクのことが気にかかる。
「あら、人聞きの悪いことを言わないで。私は外科医であって、マフィアじゃないのよ。あなたたちを監禁したりしないわ。――ドナは当分動けないでしょうけど」
「……」
人質、ということなのだろう。
無論、今回はドナに何も言わずに消えてしまうことも出来ない。彼女への思いが何であれ、投げ出すことが出来るような思いではないのだから。
「行こう、エディ」
椎名は、我が子の背を押して、翻った。
何も伝えず、何も教えずにカナダに置いて来た子供が、今はもう何も知らないままでないことも、解って、いる。
それでもやはり、話してしまうのは躊躇われた。
乗って来たレンタカーを運転して帰る気になれず、引きとりに来てもらうように連絡をし、タクシーを拾ってホテルに戻る。
十年前は、止めておいた車のブレーキが効かないように細工されていたのだ。今回も同じだとは思わないが、JNTの中で起こった残酷な出来事と、垣間見てしまった非道な実験の結末に、あの日と同じことを繰り返すのは苦痛だった。
タクシーの中で、エディが滞在先のホテルの名前を告げるのを聞き、本当に自分には勿体ない賢い子だと、椎名は思った。
そして、賢いだけに不憫だ、とも……。
ホテルに着き、部屋に入ると、中は明かりも点いておらず、真っ暗だった。
もちろん、こんな深夜――夜明けが迫る時間なのだから、電気を消して寝ていることの方が自然なのだが。
だが……。
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