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キメラ - 翅

女たちの脳 5

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「――f(機能)MRIに変化が」
 脳の断層画像では、言語をつかさどる活動領域に反応が現れている。
「誰かと話をしているということ?」
「それは判りません」
「こちらが与えた課題には応えてないんでしょう?」
「規則的な二〇秒課題への反応は通常のものです」
「いいわ。そのまま課題を与えずに、安静を保って様子を見てちょうだい」
「本当に《chimera-翅》が今回の事件に関係していると?」
「さすがにこれだけ続くとね」
「まあ、未知の生物ですから、あり得ないとは言いませんが……」
「あら、《翅》は未知の生物ではなく、遺伝子の隅々まで我々が管理している被検体よ」
「それはそうですが……」
「データを取り続けて。産卵期が近いわ。それまで彼には生きていてもらわないと」
「はい」




「あなた、だれ?」
 手足も動かせず、ただ水の中を漂う椎名の前に現れたのは、まだ七、八歳にしか見えない容姿の少女だった。
 白金の、輝くような長い髪が水の動きに揺れ動き、緑の瞳が好奇心を纏わせて凝視している。
 その背中には、蜻蛉のような薄翅があった。――いや、この状況でははねというよりも、ひれのようなもの、と云った方がいいかも知れない。
 ここがファンタジーの世界なら、間違いなく妖精と呼ばれる類のものだっただろう。
「君は……」
 ――いや、お互いに問いかけ合ってはいけない。話が前に進まなくなる。
「僕は椎名だ」
 患者に語りかけるように、椎名は言った。
「シーナ……?」
 ひらひらと、椎名を観察するように周りを飛び――いや、泳ぎ回り、水に溶けそうな姿で、覗き込む。そして――。
「――私をここから出して。あなたの記憶に何度も現れる『エディ』と同じように、私もここから」
《chimera-翅》は言った。
「僕の――記憶?」
 やはり、彼女には他人の脳に同期する力があるのだ。
「君は、僕の脳内に入り込んでいるのか?」
「どういうこと?」
「つまり――他の人間の感情の動きや何かを捕えて、シンクロすることが出来るのか?」
「……よくわからない」
「……」
 彼女は何の教育も受けてはいないのだ。アダムとイヴのように、神から《智恵の実》を禁じられ、神の意のままに存在することだけを許されている。
「僕が何を考えているか判るか?」
 椎名は訊いた。
《chimera-翅》は少しも戸惑うことなく、
「――エディを守ること……」
 そう言った。
「そうだ。君のことも気になっていた」
 ――いや、その前に、何故、自分は水中を漂っているのだろうか。
 確かに、《chimera-翅》のことを調べるために、JNTバイオメディカル研究所に忍び込めれば、と思っていたが――。
 そうだった。ドナの手を借りて、中へ入ることが出来たのだ。
 それから……。
 それから、どうしたのだろうか。


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