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ヒュドラ― - 蛇
有性生殖 2
しおりを挟む「逃げろっ、エディ!」
椎名は水槽の中へと言葉を放った。
潜水服を着た男たちが、開いた天ガラスから水槽の中へと身を沈める。それを見て、エディも水槽の片隅から翻った。
だが、逃げ場のない袋のネズミ――水槽の氷魚だ。水面に出ようとしたところを、すぐに男たちに捕らえられる。男たちは、エディの足をガッチリとつかんだ。
「いやだあ――っ!」
手足をバタつかせ、エディはこれから起ころうとすることに、叫びを上げた。
「やめろ! 彼を放せ!」
椎名もその様子を見て、水槽へと足を踏み出した。
透き通ったガラスを前にして、力一杯叩きつける。が――。
「クックッ。無駄なことですよ。そんなことで割れるようなガラスではない。数トンの鉄球を打付けたところで、傷一つ付きはしない」
嘲笑う言葉が、背中に届いた。
その言葉の通り、ガラスは見事な強度を誇っている。
「クソォっ!」
「おい、その男を押さえて置け」
テイラーが、マシンガンを構えるダーク・スーツのガードたちに、言葉を投げた。
「はっ」
すぐに数人が歩み寄り、椎名の背後から手を伸ばした。
「触るな――っ」
「撃ち殺してもいいんですよ。『あれ』の生殖を見せる前に」
水槽から連れ出されるエディを見て、テイラーが言った。
どうすることが出来た、というのだろうか。
椎名はその口惜しさにこぶしを結び、手のひらに爪を食い込ませた。
潜水服の男たちに捕獲された美しい氷魚が、水滴を落としながら実験台へと運ばれて行く。
「いやだ! もういやだあ――っ!」
「暴れればどうなるか解っているだろう? もう一度水槽に連れ戻して、電気をかけておとなしくさせてから実験を始めてもいいんだ」
テイラーの言葉に、エディの碧い瞳が凍りついた。
彼は今までずっとそうされて来たのだろう。テイラーの言葉に首を振る度に電気をかけられ、従順にされ――。今も、電気をかけられる痛みに、哀れなほどに脅えている。
「いい子だ。この美しい容姿、白い肌、まだ幼い胸の膨らみ、やっと形を成した生殖器……。これこそ完璧な姿だ。この姿から、私にどんな子を見せてくれるのか楽しみだよ」
水に濡れた肌を弄り、テイラーは狡猾な瞳を薄く細めた。
「や……いや……」
彼を放っておける、というのだろうか。このまま黙って見ていることが出来た、と――。
「エディ――」
椎名は、憤るような思いを胸に、足を一歩踏み出した。
だが、マシンガンを持つガードたちが、その行く手を塞ぎ止める。
「あなたではなく、『あれ』を撃つことも出来るんですよ。何しろ、『あれ』の傷はすぐに治る。何度撃ったところで、構いはしない。まあ、その度に、『あれ』は気を失うほどの痛い思いをすることになるでしょうが」
「……」
その言葉に、椎名は足を止めることしか出来なかった。
「どうです、ドクター.椎名? 『あれ』の美しさは。誰もがこの美しい神秘に魅せられる」
「……」
――魅せられる……。
そう、なのだろうか。――いや、きっとそうなのだろう。椎名もまた、確かに彼を美しい、と思っていたのだ。
「や……見な……で……」
実験台に拘束された四肢を震わせ、エディは、金の髪を脆く揺らした。
水滴を纏わせ、冷たく凍える彼の姿は、何よりも美しく、不思議な魅了に満ち溢れている。
その身に両性を持ち、雌雄同体となった生物。無性的な生殖から、有性的な生殖が可能となった彼の肢体は、限りない神秘の結晶だった。
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