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十九夜 白蛇天珠(しろえびてんじゅ)の帝王
十九夜 白蛇天珠の帝王 33
しおりを挟む――あの鳴き声は!
外から聞こえた烏の鳴き声に、有雪は胸を一つかみされる思いで、透明で美しい窓ガラスに駆け寄った。慣れない頃は、見えない壁にぶつかるように、体当たりしてしまったこともあったのだが。
必死で外に目を凝らすと、向かいの邸宅のシンボルツリーの一枝に、珍しい白い烏が止まっているのが見て取れた。
「やはり、おまえなのか!」
今まで、有雪一人がこの時代に飛ばされて来たものだとばかり思っていたのだが、そうではない可能性があったとしても、おかしくはない。無論、色が白いだけで全く別の烏、ということもあり得るだろうが。
否――。そんなことはあり得ない。
いつも自分の肩に止まっていたあの白烏を、有雪が見間違うはずなどないのだから。
窓を開けると、白烏の方も、それが合図のように小枝を離れ、有雪の方へと飛んで来た。まるで、そうすることが当然のように。
そして、それを見て驚いたのは、花乃だった。
「きゃっ! 何?」
と、向かって来る白烏に声を上げ、その白烏が有雪の肩に止まるのを見ると、
「……有雪さんのペット?」
「ぺっと?」
また何やら知らない言葉が出て来たが、言わんとしていることは判ったので、
「俺の友だ」
有雪は言った。
「こいつもこの時代に来ていたとは!」
何もかもが違う先の世で、見知った者に会えることが、これほど悦ばしいことだったとは――。そう思ったが、この白烏が京都ではなく、東京にいるとなると、飛ばされた先の京都では有雪のことを見つけられずに、ここまで探しに来たというのだろうか。
不明な部分もあることにはあったが、まさか、今までどこで何をしていたのかを、この白烏に問う訳にもいかない。
「よくぞ俺を見つけてくれた」
その場はそう言うに留め、白烏を友という有雪にポカンとしている花乃に、
「驚かせて済まなかった。こいつも『しんかんせん』には乗れるのか?」
「え? あ、多分、カゴに入れて、手荷物料金を払えば……」
平安の時代に帰れる日が来たら、共に連れ戻ってやらなくてはならない。
よもや、双子の田楽師や検非遺使までこちらの時代に来てはいないと思いたいが、来ていたところで言葉が話せるものなら、有雪のように何とかやっているだろう。
「その鳥って……白いけど、烏なの?」
鳴き声と姿の不一致に、花乃が確認するようにそう訊いた。
「やはり、この時代でも珍しいのか? 白い姿では敵に襲われやすい故に、こうして俺の肩にいるのやも知れぬな」
有雪が言うと、
「嘘ばっかり」
「え?」
「自分の身を守るため、なんて、そんなこと――。どっちも、互いが恋しくてたまらない、って顔をしてるのに」
「……」
不思議な娘だった。
何処にでもいる、頼りない少女にしか見えないのに、時々こうして物事の本質を見るような言葉を口にする。
もしかすると、帝王というのは全てに渡って完璧な者などではなく、一部分でも他人より秀でている者のことを云うのかも知れない。
もちろん、花乃の場合は、まだそれらが顕著に現れている風ではないが。長い時を経れば、その部分が磨かれ、完成されて行くのかも知れない。あの会館にいた信者たちも、確かに花乃の紡ぎ出す言葉に感動し、その身から溢れる特別な力に、ああしてひれ伏していたのだから。
「さあ、俺の支度は身軽だから、もう済んだ。――そっちは?」
有雪がそう訊いた時、玄関のチャイムが鳴り響いたのだった。
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