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二十夜 眠れる大地(シブ・イル)の淘汰
二十夜 眠れる大地の淘汰 18
しおりを挟むとにかく、デューイが村の人々に侵入者のことを伝えて回っている間に、舜は昨日捜さずに終わった区画の方へと駆けだした。――といっても、数万の村人が住む巨大な地下迷路。捜していない区画の方が多いし、昨日と違って別の匂いが村のあちこちに残っているため、余計に捜索が困難になった。
だからといって、昨日のようにどこから漂って来ているのか判らないほどの微かな匂いでもないため、一番匂いの強い場所へと行けばいい。もちろん、まだそこに居るとは限らないし、他にも匂いの残っている場所が数多にあるため、ひとつひとつ潰して行くしかないのだが。
何カ所か匂いの強い部屋を覗くと、大抵が行方不明になった者たちの部屋で、侵入者が眠っている村人たちを狙って襲ったことは容易に知れた。
だが、殺されている訳ではない。血の跡が残っていたりはするが、そこに死体は一つもなかった。
彼らは静かな眠りの時間の内に、どこかに連れ去られてしまったのだ。その数は、十人や二十人ではないに違いない。部屋にいた家族丸ごと消えているのだから、そんな部屋が全部で結局いくつあるのだか……。
そうして舜が、血の匂いと、村人でない匂いを追って地下迷路を捜索していると、三人の子供たちがどこかオドオドとした様子で、かたまって話をしているのが目についた。
「どうした? 何かいたのか?」
三人の背中に声をかけると、
「うわっ!」
「ひっ!」
「わっ!」
と、三人が三人とも、跳び上がるほどに驚いたようで……。
――魔物に怯えているのだろうか。
だが、それにしては親元からも離れて、子供たちだけでこんな処にいるなど……。
「大勢の村の人がいなくなったんだ。何か知っているのか?」
舜が訊くと、子供たちは互いに顔を見合わせた後、大きな声で泣き出した。
「うわあああんっ、ごめんなさい!」
ずっと誰にも言えなかったのか、舜が他所者だから言い易かったのか、それから子供たちは事の起こりから、今日、目が醒めるまでに起こったことを話してくれた。
「ぼくたち、あいつが魔物だなんて知らなかったんだよぉ……!」
ヴィタリー、キリル、イサークの三人の話はこうだった。
中毒性の高い茸を食べて腹痛を起こしている少年を助けるため、村まで連れて来て薬を飲ませ、その日は旅を続けられる状態ではなさそうだったので、誰も使っていない納戸に泊めたという。そして、その少年から、お礼に皆に一個ずつ苔桃の実をもらい、三人が知らない人間を村に連れて来たことは誰にも内緒にしておいて上げる、と言われた、と――。
「どうやって、そいつをこの村に入れたんだ?」
どの出入り口にも、大人たちが化け物を警戒して立っていたはずである。
「ぼくたちだけしか知らない、秘密の抜け穴があって……」
いつの時代も、大人たちが知らない子供だけの秘密、というものは存在する。――いや、舜に限っては、父親たる黄帝に隠し通せた秘密など、ただの一つもないのだが……。まあ、そんなことは例外中の例外として、今は参考にする必要もないだろう。
「そこに連れて行ってくれ」
「でも……」
「誰にも言ったりしないから」
子供たちには、この言葉が一番効いたようで――。すぐにその部屋へと案内してくれた。
確かにその納戸は、もう何年も使われていないようで、部屋の奥に置かれた葛篭の古めかしさだけが、かつて持ち主がいたことを現していた。
「そこの奥……」
葛篭を指差して、ヴィタリーが言った。
言葉の通り、葛篭を退けると小さな穴が現れる。血の匂いもする。
恐らくその《少年》は、ここから村人たちを運び出したのだろう。
だが、消えた村人たちの数からして、魔物の数も一匹ではあり得ない。
「皆のところに戻っていろ。オレはここから外に出てみる」
舜は言った。
すると、舜のウエストポーチに押し込まれた、スケルトンのブタの貯金箱の中に、いつもの灰の姿の青年がいないことに気が付いたのか、
「あの人に知らせなくていいの?」
キリルが言った。
別に、舜は一人でも全く大丈夫なのだが、ここでも二人セットで見られているとは、本当に腹が立つ……。
「あいつなら、オレが行くところには勝手に付いて来るさ」
舜が言うと、
「カッコイイ……!」
いや、使うべき形容詞を間違っている。うっとうしい、が正解である。
が、まるで家来を伴う王子様を見るように恍惚と、三人は舜の姿を見送ったのだった……。
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