上 下
520 / 533
二十夜 眠れる大地(シブ・イル)の淘汰

二十夜 眠れる大地の淘汰 18

しおりを挟む


 とにかく、デューイが村の人々に侵入者のことを伝えて回っている間に、舜は昨日捜さずに終わった区画の方へと駆けだした。――といっても、数万の村人が住む巨大な地下迷路。捜していない区画の方が多いし、昨日と違って別の匂いが村のあちこちに残っているため、余計に捜索が困難になった。
 だからといって、昨日のようにどこから漂って来ているのか判らないほどの微かな匂いでもないため、一番匂いの強い場所へと行けばいい。もちろん、まだそこに居るとは限らないし、他にも匂いの残っている場所が数多にあるため、ひとつひとつ潰して行くしかないのだが。
 何カ所か匂いの強い部屋を覗くと、大抵が行方不明になった者たちの部屋で、侵入者が眠っている村人たちを狙って襲ったことは容易に知れた。
 だが、殺されている訳ではない。血の跡が残っていたりはするが、そこに死体は一つもなかった。
 彼らは静かな眠りの時間の内に、どこかに連れ去られてしまったのだ。その数は、十人や二十人ではないに違いない。部屋にいた家族丸ごと消えているのだから、そんな部屋が全部で結局いくつあるのだか……。
 そうして舜が、血の匂いと、村人でない匂いを追って地下迷路を捜索していると、三人の子供たちがどこかオドオドとした様子で、かたまって話をしているのが目についた。
「どうした? 何かいたのか?」
 三人の背中に声をかけると、
「うわっ!」
「ひっ!」
「わっ!」
 と、三人が三人とも、跳び上がるほどに驚いたようで……。
 ――魔物に怯えているのだろうか。
 だが、それにしては親元からも離れて、子供たちだけでこんな処にいるなど……。
「大勢の村の人がいなくなったんだ。何か知っているのか?」
 舜が訊くと、子供たちは互いに顔を見合わせた後、大きな声で泣き出した。
「うわあああんっ、ごめんなさい!」
 ずっと誰にも言えなかったのか、舜が他所者だから言い易かったのか、それから子供たちは事の起こりから、今日、目が醒めるまでに起こったことを話してくれた。
「ぼくたち、あいつが魔物だなんて知らなかったんだよぉ……!」
 ヴィタリー、キリル、イサークの三人の話はこうだった。
 中毒性の高い茸を食べて腹痛を起こしている少年を助けるため、村まで連れて来て薬を飲ませ、その日は旅を続けられる状態ではなさそうだったので、誰も使っていない納戸に泊めたという。そして、その少年から、お礼に皆に一個ずつ苔桃の実をもらい、三人が知らない人間を村に連れて来たことは誰にも内緒にしておいて上げる、と言われた、と――。
「どうやって、そいつをこの村に入れたんだ?」
 どの出入り口にも、大人たちが化け物を警戒して立っていたはずである。
「ぼくたちだけしか知らない、秘密の抜け穴があって……」
 いつの時代も、大人たちが知らない子供だけの秘密、というものは存在する。――いや、舜に限っては、父親たる黄帝に隠し通せた秘密など、ただの一つもないのだが……。まあ、そんなことは例外中の例外として、今は参考にする必要もないだろう。
「そこに連れて行ってくれ」
「でも……」
「誰にも言ったりしないから」
 子供たちには、この言葉が一番効いたようで――。すぐにその部屋へと案内してくれた。
 確かにその納戸は、もう何年も使われていないようで、部屋の奥に置かれた葛篭つづらの古めかしさだけが、かつて持ち主がいたことを現していた。
「そこの奥……」
 葛篭を指差して、ヴィタリーが言った。
 言葉の通り、葛篭を退けると小さな穴が現れる。血の匂いもする。
 恐らくその《少年》は、ここから村人たちを運び出したのだろう。
 だが、消えた村人たちの数からして、魔物の数も一匹ではあり得ない。
「皆のところに戻っていろ。オレはここから外に出てみる」
 舜は言った。
 すると、舜のウエストポーチに押し込まれた、スケルトンのブタの貯金箱の中に、いつもの灰の姿の青年がいないことに気が付いたのか、
「あの人に知らせなくていいの?」
 キリルが言った。
 別に、舜は一人でも全く大丈夫なのだが、ここでも二人セットで見られているとは、本当に腹が立つ……。
「あいつなら、オレが行くところには勝手に付いて来るさ」
 舜が言うと、
「カッコイイ……!」
 いや、使うべき形容詞を間違っている。うっとうしい、が正解である。
 が、まるで家来を伴う王子様を見るように恍惚と、三人は舜の姿を見送ったのだった……。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

中国夜話 毛沢東異界漫遊記

藤原 てるてる
歴史・時代
……それは鄧小平の黒猫話から始まった。 「黒い猫でも白い猫でも、鼠を捕まえるのが良い猫だ」 「先に豊かになれる者から、豊かになればいい」 ……改革開放に舵を切った。市場経済こそが繁栄すると。 読みはあたった。先進資本主義を手本にし、今やまた世界の大国になった。 毛沢東は言った「あの小さいのが、国を率いるのです」 その読みもあたった。地方への下放と言う左遷、失脚を乗り越えて躍り出た。 今の中国は鄧小平が作った、その鄧小平は毛沢東が目を付け育てた。 つまり、良くも悪くも毛沢東が共産中国の母体である。 功罪あわせ持った毛沢東は、問題があった。反省を知らないかに見える。 私はせめて天界では反省してもらいたいと、今、小説を書いています。 「中国夜話 毛沢東異界漫遊記」では天界で様々な人に会う物語りです。 そこで心に変化が生まれ、人の自由とは何かに思い至るのです。 かの孫文は自由、そして民主とはを知っていた。だが、思いなかばで倒れた。 ある意味、孫文は台湾、香港、マカオを作ったと言えるのかも。 もはや香港、マカオには、自由と言う普遍の価値の行方はわからない。 私には、中国問題とは毛沢東問題だと思う。 この数百年に一人と言われる人物に、自由と民主について問いたい。 小説の中では、徐々に徐々にと目覚める筈ですが、どうなるやら。 中国悠久の歴史の、ある一過性かも、さて……

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかばEX
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...