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二十夜 眠れる大地(シブ・イル)の淘汰
二十夜 眠れる大地の淘汰 12
しおりを挟むおお、と村人たちの目に精気が宿った。悲嘆と絶望に暮れていた人々が、生きる希望を取り戻したのだ。
そして、黄鼠狼たちの動きもそこで止まった。舜の動きを警戒するよう、前足で抑えつけている村人のことも見ようとしない。舜の動きだけに全ての神経を向けていた。
その睨み合いが続いた後――、
「――おまえ、他所者だな?」
黄鼠狼の中のリーダーらしき一匹が言った。どうやら人の言葉を操れるらしい。
「なぜ、そいつらに加担する?」
訝しげに眼を細めて、問いを重ねる。
「加担してる訳じゃない。襲われているから、助けただけだ」
伸ばした爪をまだ引っ込めずに、舜は言った。
「助けた? そいつらはこの眠れる大地を根絶やしにする害獣だぞ」
黄鼠狼は言った。
「ただ静かに暮らしているだけの村人だ」
「この大地の僅かな恵みを喰らい尽くしたのはそいつらだ」
「――」
確かに、彼らからすれば、これまで遊牧民として移住生活をしていた人々が、一カ所に定住して住みつき、その周辺の糧を採り尽くせば、怒りの矛先を向ける対象にもなるのだろう。
しかも、不安定な移住生活から、安定した定住生活になったことで、村の人口も爆発的に増えた。彼らのせいで他の生き物たちの糧が無くなってしまったのだと言われれば仕方がない。
「増えすぎた害獣を駆逐するのは、当然のことだ」
黄鼠狼は続けて言った。
――誰を生かし、誰を見捨てるのか。
これは、村人たちだけのことではなく、ここに住む全ての生き物たちのことだったのだろうか。
このまま村を存続させるのか、それとも……。
「お、おい、おれたちを助けてくれるんじゃないのか……?」
「どうして化け物に言い返さないんだ?」
考え込んでしまった舜を前に、村人たちの不安そうな声が漏れる。
「おまえ、俺たちがこの化け物に喰い殺されることの方が正しい、と思ってるんじゃないだろうな!」
一際強い口調で放たれたコーリャの言葉に、舜はハッと我に返った。
だが、繊手はそれ以上奮うこともなく、伸びていた爪も静かに潜める。
「畜生! 裏切りやがったな!」
腹立たしさを込める声で、コーリャが言った。
ほくそ笑むような黄鼠狼の喉を鳴らす音が聞こえ、
「解ればいい。たった一〇〇匹の害獣を駆除したところでこの大地は甦らないが、こいつらを放っておくよりは有益だ」
その一言に、他の黄鼠狼たちも緊張を解いた。
再び殺戮が始まるのか――。そう思えたのだが、
「おまえたち、この村人たちの何倍もデカイんだから、河の魚も獲れるだろ?」
舜は言った。
「言っただろう? 害獣を狩る方が有益だと」
黄鼠狼に、その選択は受け入れられなかったようである。
「なら、仕方がない。――言っておくが、オレは本気で行くぞ」
握ったこぶしに気を集め、舜は黄鼠狼たちを睨みつけた。
漆黒の髪が少しも揺れずに細く流れ、闇を覗く黒瞳が、血のような深紅に染まって行く。
「そっちは任せたぞ、デューイ」
「わかった」
灰の姿の青年が頷く。
「面白い。さっきの不意打ちのように行くと思うなよ」
黄鼠狼たちの攻撃対象が、村人たちから舜に変わった。小煩い一匹のネズミを始末してから村人を――と思ったのだろう。
だが――。
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