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二十夜 眠れる大地(シブ・イル)の淘汰
二十夜 眠れる大地の淘汰 6
しおりを挟むそれでも、当座の糧は必要だ。
舜やデューイに食べ物は不要だが、ベビーラッシュで人口が爆発的に増加した村の事情を知りながら、ここに三食(食べない)昼寝付きで居付いてしまうわけにはいかない。
そんな事情で、夜も更けた頃、舜とデューイは地下迷路のような村を抜け出したのである。
驚いたことに、そんな時間でも村の人々の大半が起きていて、まだまだ遅くまでせっせと働いたり、お喋りをしたりが続きそうな雰囲気だった。もちろん、都会だって、夜の歓楽街には昼夜逆転した人間たちが溢れているのだから、別に驚くようなことではなかったかも知れないが。
暗い中を明かりも持たずに歩き出し、二人は急速に過ぎゆく夏の気配と、すぐさまこの地を覆い尽くしそうな冬の気配に、厳しい自然の姿を見つめた。
行けども行けども、糧になりそうな木の実や草花、植物の根っこは見つからず、見つかったものと言えば――。
「あ、あれ、村の人たちじゃないか、舜?」
スケルトンのブタの貯金箱の中から、デューイが言った。
見れば、やはり舜たち同様、冬越えの食糧を探しているのか、五、六人の村人たちらしき姿が前方にあった。デューイが舜よりも先に気付いたのは、舜は食べられそうなものの匂いを嗅ぎつけることに集中しながら歩いていたため、前を見ていなかったからである。
まあ、そんな事情はいいとして、
「おーい、この辺には食べられそうなものはもうないぞ。何の匂いもしない」
村人たちの方へ進みながら、舜が言うと――、そのすぐ後に、食べられそうなものの匂いが近づいて来たのである。木の実や茸の類ではなく、もっと生臭い獣の匂いが――。
闇に紛れ、鋭い爪と嘴を持った猛禽が、風のような速さで降下して来る。
バサバサっと降下を止め、再び上空に舞い上がるための羽ばたきが聞こえると、
「うわああっ! 助けてくれ!」
村人の一人らしき声が上がった。
「逃げろ、猫頭鷹だ!」
地上に残った者たちが、四方に散った。
「舜!」
「ああ」
それは巨大な鳥だった。――いや、闇の中に広げられた翼の巨大さからしても、化け物としか呼びようがない。平たい顔と、大きな丸い眼、村人を一掴みにする巨大な鉤爪。
「暴れずにじっとしていろ!」
舜は言うなり、地面を蹴った。
黒い髪が風に靡き、一族特有の青白い肌が夜を翔ける。
だが、翼を持つ化け物の飛翔には届かない。
「投げるぞ、デューイ!」
「解った」
スケルトンのブタの貯金箱を手に取ると、舜はそれを空翔ける化け物めがけて投げつけた。
「グアァッ!」
羽根に覆われた分厚い胸に、スケルトンのブタの貯金箱が直撃する。
猫頭鷹、と呼ばれた化け物の呻きが上がったが、それだけではなかった。貯金箱の上部に付いたコイン投入口から、灰の姿のデューイが躍り出る。その灰の体は瞬く間に猫頭鷹を包み、最初に夜目の利く目を潰した。
猫頭鷹が上空で、バサバサと暴れる。
「うわああっ! 落ちる! 助けてくれ!」
緩んだ鉤爪にしがみつき、村人が蒼白な面で声を荒げた。
「手を放せ! 受け止めてやる!」
地上で舜が言うのだが、通りすがりの他所者を信じて、手を放す馬鹿もそうそういない。
「おい、デューイ、何とかしろ!」
苛立って言うと、さらさらとした灰が鉤爪に流れ、
「ごめん!」
と、人の善い謝罪をしてから、自らの体を薄刃の形態に変化させて、猫頭鷹の鉤爪を切断した。
「グゲェェッ!」
再び猫頭鷹が奇声を放った。
鉤爪ごと落下する村人が、
「うわあああ――っ!」
と、悲愴な叫びを上げて、目を瞑る。
舜はその村人を難なく受け止め、
「あいつも仕留めて来いよ、この馬鹿っ!」
と、灰の姿のデューイに向かって悪態づく。自分は貯金箱を投げただけなのに、偉そうである。
「ご、ごめん。でも、なんか可哀想な気がして……」
素直に謝ってしまうのである、こっちも。
まあ、食糧は仕留めそこねたとはいえ、村人の命は救ったのだから……。
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