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十七夜 憑き物の巣
十七夜 憑き物の巣 23
しおりを挟む「――で、悪魔がなんだって言うんだよ?」
また三人になったところで(デューイも数に入っている)、病院へ向かうバスの中で聞いた言葉を、舜は訊いた。
祐樹はせっかくの気分の良さを削がれたようだったが、落ち込む気分のままに口にした自分の言葉に、しばらく返答に迷っていたが……。
「君には関係ないだろ。大体なんでうちにいたんだよ」
母親が元気そうだったことですっかり気を持ち直したようで、突き放すように言い返した。
病院で母親と会わせてしまったことが裏目に出たのである。
だが、大きな弱みを握っている舜としては、へでもない。
「あの情けない姿を真綾にバラすぞ」
と、鼻で笑う。が――、
「好きにしろよ。証拠があるのなら、な」
「――証拠?」
「写真かビデオでもあるのか? この国は証拠主義国家なんだ」
完全に我を取り戻している。
「そんなもん、どうとでも――」
「ダメだよ、舜! 証拠もないのにそんなこと言っても、法治国家じゃ通らないんだ。逆に名誉毀損で訴えられるよ!」
ポケットから、ガムテープに貼りついたままのデューイが言った。
もちろん、舜以外には聞こえていない。
そして、舜は訴えられても全く構わない。
「バスを降りたら覚えてろよ」
そしてバスは揺れ続け、雀川団地前でバスを降りると、他の乗降客が散るのを見て、舜は祐樹の胸倉をつかみ上げたのである。
「なっ、何を――っ!」
「さあ、急いで家に帰ろうか」
この少年が、祐樹の胸倉をつかみ上げたまま、全力疾走で団地の中を駆け抜けたことは言うまでもない。
そして、気を失うほどの風圧を受けながら、人とは思えない――人であるはずもない舜の力を見せつけられた祐樹は、といえば――。
「起きないな、こいつ」
ぐったりとしたまま、自分の部屋に横たわっている祐樹を見て、舜は言った。
「当たり前だよォ。心臓が止まったらどうするんだ。人間は体も心も弱いんだよ」
デューイはもう、真っ蒼である。――いや、灰の身なのでモノクロだが。
「仕方がない、こいつは放っておくか」
「え? でも、舜――」
「真綾が来てたみたいだし」
クン、と鼻を動かし、その匂いをかぎわけるようにして、この部屋にいた人物の形跡を辿る。
「それに、もう一人……」
「もう一人?」
祐樹と母親が二人で暮らしているこの団地に、他に誰がいたというのだろうか。しかも、真綾一人しかいない時に、部屋に入って来ているなど――。
「何か調子でないなぁ、今回……」
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