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十七夜 憑き物の巣
十七夜 憑き物の巣 19
しおりを挟む一方、仕事を終え、本来なら昨夜の寝不足を解消するため、すぐに家に帰って風呂に入って寝てしまいたかった真綾だが、そこは性格上、祐樹のことが気になって、ついついまたメールを入れてみたものの、祐樹からの返信は全くなく、電話にも出ず……で、またまたこうして祐樹の住む団地の前にまで来てしまったのである。
そして、真綾が祐樹の家で見たものは――。
「開いてる……」
鍵の掛かっていない玄関のドアを開けて、
「――祐樹?」
と、声をかけながら足を入れると――。
「何、これ……?」
部屋の中はめちゃくちゃで、台所も寝室も、扉という扉、引き出しという引き出しは開け放たれ、中のモノが引きずり出され、とんでもない状況になっていたのだ。
まるで、泥棒にでも入られたかのように――。
「まさか!」
真綾がとっさに思ったのも、まさしくその《泥棒》だったのである。
母親の入院の支度をして、慌てて出て行った祐樹が玄関の鍵をかけ忘れ、そのせいで泥棒に入られたのではないかと――。
すぐにもう一度、祐樹の携帯に電話をしたが、その電話の着信音が鳴り響いたのは……。
「もう! こんな時に携帯を忘れて!」
着信音は、祐樹の部屋から聞こえて来た。
これでは、真綾のメールに返信できず、電話にも出られないはずである。きっと、母親の処に急いでいたために、うっかり置き忘れてしまったに違いない。
――一日くらい仕事を休んで、祐樹について行ってあげればよかった。そうしたら、慌てて鍵をかけ忘れることもなかっただろうし、泥棒に入られることもなかっただろうに。
家のこと全てを母親がして来た家庭で、突然その母親が入院したら、頼りない祐樹一人では、さぞ心細かったことだろう。
そんなことを考えながら、真綾は微かな後悔と罪悪感を胸に、警察へと電話をした。――いや、しようとした時――。
「――誰かいるの?」
気配を感じ、真綾はハッと身を固くした。
こういう場合、一番怖いのが、犯人と鉢合わせることである。もし、部屋を荒らした犯人がまだ逃げる前で、他の部屋に隠れていたのだとしたら……。
向こうも、見つからないように必死である。それこそ、見つかってしまったら、口封じに殺して逃げるしかない――と、思いつめるほどに。
真綾はじっと息を潜め、その気配を読み取ろうと耳を澄ました。
そして、その声を聞いたのだ。
「あなたね。私と祐樹の邪魔をするのは……」
「――じゃあ、本当におまえが誰かに犯された、っていうのか?」
犯されたと言っても、カマを掘られた訳ではなく、終始いい思いをさせてもらっただけのようだが。
祐樹が語った言い訳に――いや、違った。言い分に、舜は疑いのまなこで眉を寄せた。
何しろ、『らら』に言われるままにガムテープで眼隠しをして(タオルで眼を隠そうとしたらしいが結び辛く、手拭などという気の利いたものは家の中にはなかったらしい)、手と足を、以前にネットで買った手錠で拘束して、次の言葉を待っていると――。
「悪魔だよ! ぼくが『らら』を置き去りにして、『らら』の力が『バルベリト公』に劣ったから、『らら』が『バルベリト公』を制御できずに、彼の意のままにされたんだ」
「……」
最早、何と言っていいのか判らないし、祐樹が何を言っているのかも解らない。
思考が舜と噛み合っていないというか(いや、世間と噛み合っていないのか)、リアルとバーチャルがごちゃ混ぜになっているというか、救いようもない。
もっと現実を見て、現実の世界に生きようという気はないのだろうか。
だが、真綾の話によると、祐樹がこんな風になったのは、まだ最近のことらしい……。
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