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十七夜 憑き物の巣
十七夜 憑き物の巣 18
しおりを挟む見たこともない少年である。
もちろん、母親が救急車で運ばれる時には、すぐそこにいたのだが、茫然としていた祐樹には、そんな舜の姿など、全く見えてはいなかったのだ。
そんな、見覚えのない少年が部屋にいる。
やっと、その違和感に眉を寄せ、祐樹は自宅に勝手に上がり込んで来ている人外の少年に問いかけた。
「誰って――」
舜はごそごそと上着の内ポケットを探り、
「オレは《魔物退治屋》だよ」
と、真新しい名刺を取り出した。
――そんなモノまで作っていたのか!
今は簡単に何でも作れる時代なのだ。
もちろん舜には作れないので、これは、便利な日本の生活に慣れた、玉藻御前からの就職祝い(?)である。
そして、そんな名刺を渡された祐樹の顔は呆気にとられ、胡散臭いものを見るような眼つきと、それでも、舜の人外の神秘に、すぐに否定も出来ない――そんな複雑な表情が現れていた。
「――学校で流行ってるのか?」
まあ、一番妥当な――一般人には受け入れやすい現実への転換である。
「は? なんだよ、それ――」
と、舜は言いかけたが、
「舜! ここはそう言うことにして、取り敢えず彼から話を訊こう」
何しろ、赤眼が使えないのでは、祐樹が混乱している内に訊いてしまわなくては、厄介である。
普通、見も知らぬ少年が勝手に家に入り込み、ふざけた《魔物退治屋》の名刺を出したとしたら、それだけでも相当、胡散臭い。それでも騒ぎ出さないのは、みっともない自慰を舜に見られたことへのうろたえと、舜のただならぬ気配と美貌のためであっただろう。
「まあ、何でもいいけど――。あ、真綾の知り合いだから、怪しい者じゃないぜ」
どちらかというと、妖しい部類には入るが。
「真綾の……」
「ああ」
これは嘘ではない。
「それで、おまえ――」
と、舜が言いかけると、今度は電話が鳴りだした。
日本という国は、どうしてこんなに忙(せわ)しなく時が流れているのだろうか。
「はい、もしもし――」
電話を取った祐樹の顔色が、サッと変わった。
「す、すみません。保険証も着替えもまだ……その、探せてなくて……」
なら、彼はあれからずっと母親の保険証も着替えも用意せず、当然病院にも行かず、ゲームの前にいたというのだろうか。丸一日、ずっと……。
電話の向こうの相手――恐らく、母親の入院している病院からの電話だろう――への祐樹の言い訳に、舜は怒りのままに立ち上がり、こぶしを強く握り締めた。
「ダメだって、舜! 本気で殴ったら死んじゃうよ!」
本気でなくとも死んでしまうに違いない。
何しろ祐樹は、彼らよりも遥かに弱々しい肉体しか持たない、ただの人間なのだから。
「なら、さっさと保険証と着替えだ!」
「そ、そうだね」
そんな訳で、部屋の中を引っ掻き回し、戸棚やタンス、扉や引き出しのついたものは全て開け放ち、舜とデューイ、そして電話を切った祐樹は、保険証と着替えを始めに、その他入院に必要な洗面道具やお箸、湯のみ、ラップやナイロン袋まで、病院側から聞いた必要なものを、間違いなく全て揃えたのだった。
「ほら、行くぞ」
話は、病院へ行く道中、バスの中で始まった。
祐樹も今日は、「ゲームが――」とは言わなかった。
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