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十七夜 憑き物の巣

十七夜 憑き物の巣 8

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 稲穂のように豊かな髪と、白く滑らかな肌を持つその美姫は、舜とデューイの話を聞くと、さも楽しげに口元を隠して目を細めた。
「そなた、やはり面白い子供よのう、舜」
 と、知り人の息子を見て、再び笑う。
「オレ、そんな可笑しいこと言ったっけ?」
 傍らに漂うデューイに問いかけると、デューイも意味が判らないようで……。
「魔物が魔物を退治するなど、笑止千万。魔物にあるのは、喰うか喰われるかの殺戮だけであろうに」
 と、また優美に口元を隠して、笑いを零す。
 ここは、黄帝と碧雲と一緒に招かれている、玉藻御前の御殿である。
 平安の世に贅を凝らして造られた屋敷と庭園、そして、古今東西から集められた珠玉の数々――。
 中国から天竺、そして、日本に移り住んだと噂されるこの美しく妖しい御方は、それはもう永い時を生き抜いて来られた、性根の悪い――いやいや、一筋縄ではいかない御方である、きっと。
 あの黄帝の知り人であるのだから。
「それは、いつか黄帝とやるよ」
 喰うか喰われるかの殺し合いのことである。
 舜が応えると、玉藻御前は、今度こそ声を立てて、堪え切れないように肩を揺らした。
「では、わらわもそれまでは生き永らえておかねばならぬのう――。世にも面白いものを見損ねてしまう」
 案外、気さくで打ち解けやすい御方だったりする。何より、言葉遣いや細かいことに煩くないのも嬉しい。
 デューイに言わせると、そういうことはちゃんと注意して直してもらった方がいいらしいのだが……。まあ、人によりけりで、そういう堅苦しい付き合いは不要、という御方には、これで良いのだろう、きっと。所謂、臨機応変という奴だ。
「――で、そのゲームの魔物は退治出来たのかえ?」
 一頻り笑ってから、玉藻御前が訊いた。
「退治も何も……」
 そのゲームの中の天使『らら』は、ただ音声認識機能によって、登録された音声と違う音声には、
「だれ? あなた、祐樹じゃない」
 と、問いかけるように設定されていただけで、別に攻撃を仕掛けて来る訳でもなく、祐樹に取り憑いている訳でもなかったのだ。
「多分、音声認識パスワードになっていて、登録主の声でしかゲームが続行出来ないようになっているのではないかと思います」
 デューイが補足して、説明する。
「ふむ。ならば当然、報酬も手に入らなかったのじゃな」
 その言葉に、
「ああ――っ!」
 やっと気付いたように、舜が大きな声を上げた。
「もらいに行かないと!」
「え?」
 そうは言っても、魔物退治どころか、祐樹の母親が救急搬送されてしまったために、依頼主たる真綾もついて行ってしまって、今どこにいるのかも判らない。
 しかも、判ったところでお金を払ってくれるかどうか……。
 今一つ、働くことの大変さと、お金を稼ぐことの意味を理解していないのである、この少年。
「ほら、行くぞ」
 そう言われると、デューイも付いて行くしかない。
 だが――。
「どれ、わらわも久しぶりに人の世界に出てみようかえ」


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