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十六夜 五个愿望(いつつのねがい)の叶う夜

十六夜 五个愿望の叶う夜 10

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「――帰るぞ」
 深緑の亡骸を見つめる舜の背中に、いつもの索冥の声が静かに届いた。
 昔馴染みでも友人でもなく、たまたまこうして望みを叶えることになっただけの、短い縁。
 それでも、こうして、限りある命の最後を見せつけられると、その儚さに胸が詰まる。
 まさか、あの母親に頼まれた時は、娘がこんな死にかけの状態だとは、思ってもいなかったのだ。
 だから、索冥を呼び付け、三人で手分けして娘を探した。
 そして、娘を見つけた、と声が届き……。
「……まだだ」
 索冥の言葉に、舜は言った。
 このまま――中途半端な気持ちのままで、帰ってしまえるはずもない。舜がした約束は、五つの願い、だったのだから。
「何をするつもりだ? 亡骸を母親にでも届けてやるつもりか?」
 長い時を生きて来た索冥の言葉は、ひどく冷たい。
 だが、それは彼が冷たい生き物であるから――ということではなかっただろう。
 彼が恐れているのは、舜がまた傷つくことの方なのだ。
 虞氏のように、舜まで立ち直れなくなってしまうのではないか、と――。
「まだ……五つ目の願いを叶えていない」
 静かに息を引き取った深緑を見ながら、舜は言った。
「仕方がないだろ。死んだ人間は生き返らないんだ。――それとも、今からでも同族になるか試してみるつもりか?」
 同族――。
 舜と同じ夜の一族になれば、彼女もこんなに簡単に死んでしまうことはなかっただろう。
 血を糧とし、人々に忌み嫌われる『吸血鬼』として、眉をひそめられる存在になるのなら。
 無論、彼らのことをよく知る人間なら、彼らをそんな陳腐な名前で呼ぶことはしない。
 死に切れない不遇な人々――その言葉こそ、彼らの一族に相応しい言葉である。血を吸う不死の化け物ではなく、飢えと渇きに苦しみながらも死に切れない、一族……。
「そんなことはしない」
「なら、どうするつもりだ? その娘はもう、願いを言うことも出来ないんだ」
 その索冥の言葉に、
「いや、願いはさっき聞いたさ」
 舜は言った。
 デューイも、
「僕も聞いた。彼女は確かに五つ目の願いを口にしたよ」
 まだ年若い舜と、もともと人間だったデューイの耳には、確かに彼女の願いが届いていたのだ。
『もっと……素直に……なりた……かった……』
 そんな五つ目の願いが……。


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