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十五夜 穆王八駿(ぼくおうはっしゅん)の因
十五夜 穆王八駿の因 27
しおりを挟む――黄帝という悪魔に頼む……。
記憶を持っている舜なら絶対にしない、ということは、してはいけないことなのだろうか。
そうして舜が迷っていると、
「それが出来ないなら、おまえの一族にしてやることだ。そうすれば、血を得るだけで負った傷は回復する」
索冥が言った。
「オレの一族?」
「死に切れない一族だ」
索冥の説明によると、それは決して不老不死などと呼べる夢のような生ではなく、死ぬまで苦しみから解放されることのない、苦痛の生涯であるらしい。
「まあ、そんな一族に引き込まれて、満足してるのはあいつくらいだろうが」
天を仰いで、索冥が言った。
――また、『あいつ』
索冥の口から、そうやって零れ落ちる誰かの存在に、舜は再び眉を寄せた。
きっと、その『あいつ』とかいう人物が自分に関わりの深い人物であることは判るが、索冥の言い方では、舜の方は決してその人物に好意を持っていないような……。
そうして、索冥とコソコソ話し合っていると、
「あの、舜さま」
少し具合の落ち着いたらしい櫻花が、舜の背中に声をかけた。
「約束、忘れないでくださいね……」
強く、真摯な眼差しが、舜の瞳をじっと見つめた。
それは、これまでの櫻花からは、思いもよらない強固な意志を持つものだった。
「……約束?」
舜がその言葉に戸惑った時、
「なんや、もう忘れたんか? ぜったいに櫻花を助ける、ってゆう約束や」
櫻花の後ろから顔を出し、大花が窘めるようにそう言った。
丸い顔がにんまりと笑い、幸福な様を映して見せる。
「あ、ああ……」
――その約束か。
一瞬――。
ほんの一瞬だが、櫻花から『約束』と言われた時、舜はその『助ける』という約束の方ではなく、『――枝をお切りになった後は、必ず私と共にあの蟲を殺してください……』と言った、櫻花の言葉の方を思い出していたのだ。
何故、と言われても困るが、あまりに強固で真摯な櫻花の瞳を見た時、まず頭に浮かんだのが、そっちの方の言葉だった。
そう――。瞳が同じだったのかも知れない。
『殺して』と舜に頼んだ時の櫻花の瞳と、今、『約束を忘れないで』と言った櫻花の瞳の真っ直ぐさが。
もしかすると彼女は、自分がもう助からないことを察しているのだろうか。――いや、舜と索冥の力をもってしても、彼女を助けることはできない、と、そう思っているのだろうか……。
もちろん、今は助ける手段などまだ全く思いついていないのだから、その彼女の思いは正しい。
それに、そんな方法など、ないのかも知れない。
あれば、この世界の住人たちが、あんな小さな蟲を恐れて暮らす必要などないのだから。
このまま悪戯に苦しめて、辛い思いをさせてしまうくらいなら、いっそ……。
いや――。
「索冥――」
舜は、傍らの白麒麟の化身に静かに言った。
「……その、黄帝っていう悪魔は、何処にいるんだ?」
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